臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、ドラマ『アバランチ』で主演を務める、俳優の綾野剛について。
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今クールの秋ドラマももうすぐ最終回。それなのに、回を重ねるごとにその演技をもっと見たいと思わせる俳優がいる。『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)で主演を務める綾野剛さんだ。昨年放送のドラマ『MIU404』(TBS系)での刑事役や、映画『ヤクザと家族The Family』のヤクザ役に続き、キレと躍動感のある動きや多彩な表情に引き込まれていく。
タイトルの「アバランチ」は、日本語で「雪崩」という意味。富と権力を持つ“強者”だけでなく、一般市民においてもモラルハザードが叫ばれる令和の日本を舞台に、謎に包まれた集団・アバランチの過激で痛快な活躍を描き、人々の正義感に訴えかける劇場型ピカレスク(悪漢)・エンターテインメントだ。
綾野さんが演じるのは、悪漢ではあるが本当の悪と戦うアバランチのメンバーで、元警視庁公安部外事三課の羽生誠一。仲間が殉職した3年前のテロ事件で唯一生き残ったという役だ。仲間の死という過去を背負いつつ、正義のために悪と対峙し、事件の真相に迫っていくこの役が、綾野さんにはよく似合う。
綾野さんは、人間の持つ明るさと暗さ、優しさと厳しさ、喜びと悲しみ、静穏さと凶暴さ、そんな両極に位置する感情の変化を演じるのが上手い。感情が瞬時にすっと切り替わり、まるでスイッチが入ったように目の表情や色が変わっていく。特に見せ場となるシーンで顔がアップになると、顔の右側は硬い真剣な表情で静かな怒りや恐れを見せていても、左側ではかすかに笑いながら、目には底しれぬ悲しみと憤怒が潜んでいる。右目と左目で演じている感情が微妙に違って見えるのだ。
そんな綾野さんの表情が、特に印象的だったのが第8話。渡部篤郎さん演じる、事件の黒幕である官房副長官の大山健吾が、日本版CIA創設のためにアバランチを犯人に仕立て、テロの偽装を阻止しようとするが、仲間の1人が捉えられてしまう。それを木村佳乃さん演じる特別犯罪対策企画室長でアバランチのリーダー・山守美智代から知らされた羽生は、大山のもとに行くと言い、直接対峙するというストーリーだ。