“人生の質”を指す「QOL」(=クオリティー・オブ・ライフ)という言葉が浸透したいま、新たに“よりよく死ぬこと”を追求する「QOD」(=クオリティー・オブ・デス)という言葉が生まれている。
それまでの人生がどんなに豊かでも、最期の14日が苦しいものであれば本人も周囲もつらいし、安らかなものであれば救われる。生まれる場所を選ぶことができないように、どんな死に方になるかはそのときが来なければ誰にもわからない。しかし、少しでも安らかに過ごす方法はないのだろうか。
救急救命士として多くの命と向き合ってきた、日本救急救命士協会会長の鈴木哲司さんは、あらかじめ自身の最期の瞬間を具体的にイメージしておくことが安らかな死につながるという。
「確かに、死は突然やって来るものであり、どう亡くなるか選択することは不可能です。しかし、理想の最期を考え、そこに近づけるために準備することはできる。そのためには人はどう息を引き取るのか、“最期の14日間”でどんな状態になるかを知っておくことが必要です」(鈴木さん)
一命を取り留めてもつらい日々
がんに次いで死因の割合が高いのが、脳卒中や心筋梗塞など脳や心臓の疾患だ。これらの病気は発症してすぐに重篤な状態に陥るケースが多く、14日を待たずして命を落としてしまう人がほとんどだ。2年前に心筋梗塞で夫を亡くした上田陽子さん(61才・仮名)は当時をこう振り返る。
「朝起きると夫が突然、気持ちが悪いと胸を押さえてうずくまり、苦しそうな呼吸をして倒れました。救急車を呼びましたが、そのまま家に戻ってくることはなく、病院のベッドで逝ってしまいました」
鈴木さんは、急性心筋梗塞は、死の瞬間まで激痛を伴うことが多いと証言する。
「心筋梗塞は心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が詰まって血栓ができ、心臓が壊死する病気です。『バットで背後を強く叩かれたような痛み』と表現する人もいて、救急車の中でもがき苦しむ患者も少なくありません」