「原作者は弁護士」「最初の敵は漫画村(みたいなやつ)」――と連載開始早々インターネットをざわつかせた異色作『弁護士・亜嵐陸法は漫画家になりたい』(コミックアプリ「マンガワン」で連載中)が今、じわじわと支持を集めている。現職の弁護士であり今作で漫画原作者デビューを飾った中島博之さん(ペンネーム=ゆうき まひろさん)と、画業27年を数えるベテラン漫画家・武村勇治さん。お二人はなぜ手を組んだのか、そこにはどんな思いがあったのか。異色すぎるタッグに話を聞いた。
――物語は、人気漫画家の元にアシスタントとして主人公・亜蘭陸法(あらんりくのり)がやって来るところから始まる。そこには海賊版サイトに作品をアップロードされ失職の危機に嘆く新人漫画家の姿があった。「違法アップロードはキャラクターの大量殺人行為」だと義憤に燃えた亜蘭は自身が弁護士だと明かして調査を開始する…というもの。大胆な設定は、どこから生まれたのか。
武村勇治(以下、武村):最初、中島さんの友達から連絡をもらったんです。海賊版サイトにぼくの漫画も上がってるから話が聞きたいって弁護士が言ってるんですけどいいですか、みたいな。それでお会いしたのがきっかけ。
中島博之(以下、中島):武村先生を紹介してもらったのが2018年11月で、実際会ったのが…2019年の9月ですね。池袋でした。
武村:メシ屋でね。家族も一緒ですけどご飯どうですか?って呼んで。その時、中島さんが漫画を作ってみたいんですよねって言ったんですよ。そしたらぼくの奥さんが二人でやればいいじゃんって言って(笑い)。あ、奥さん食いついたぞと思って。
中島:ちょうどその1年ほど前に『デスノート』を描いてる小畑健先生に原作を持っていったことがあって。マンガワンの初代編集長に「漫画原作やれば」って言われたのがきっかけで、脚本術の本を買って勉強して。最初に書いたのはホラーで『亜蘭』とは全然違う中二病っぽい話でした。結局、小畑先生はその頃お忙しくてお話だけして帰ってきたんですが。その後、法律関係なら自分の経験があるし、ちゃんと軸足置いて書けるっていうことに気づきまして。
武村:中島さん的に、弁護士としてこう…まんじりとするような、この判決がすっきりしないとかこの事件もやもやするって気持ちが色々あったようで、すぐにネタを3つぐらい送ってくれたんです。
中島:最初は法律できちんと裁けない悪人を合法ギリギリのところでやっつけるダークヒーロー弁護士を考えていました。
武村:それで完成間際まで作ってたんですが、ぼくが「中島さんとやる意味」みたいなものを考え始めちゃったんですよ。中島さんは漫画村の運営者を特定した弁護士さんで、海賊版サイトを倒した人ってイメージがあったんで。それで、『亜蘭』の雛形ーー漫画が大好きで、漫画キャラを憑依させて悪を裁く弁護士ーーって設定を現編集長に伝えてみたら、「じゃあ漫画家になりたがってるとかどう? アシスタントしてたら面白いんじゃないかな」って言ってくれて。
中島:編集長の「漫画家アシスタント」っていう一言があったからこそ、今の『亜蘭』ができました。一話目を見せたら「武村先生がキャラを把握して描かれてますね、ノッてますね」という言葉もあって。(設定を)変えて良かったなと。