大阪市北区曽根崎新地の堂島北ビルで12月17日午前に発生した火災では、27人が心肺停止状態となり、すでに複数の死者が出ている。ビルは8階建てで、火元と見られる4階部分には心療内科などの患者を診察するクリニックが入っており、約20平方メートルが燃えたという。防災・危機管理アドバイザーで防災システム研究所所長の山村武彦氏はこう分析する。
「短時間で激しい燃焼がありましたが焼失面積は狭く、30分という短時間で消し止めたわりに多くの犠牲者が出ています。これは普通の火災ではなく、引火性の強いものをまいた放火が疑われます。密閉空間で燃焼が起き、大量の煙で多くの人が一酸化炭素中毒で亡くなった可能性があります」
すでに大阪府警は放火の疑いが強まったとして捜査を開始。報道によると、50~60代とみられるクリニック患者の男が持っていた紙袋に液体が入っており、そこから火がついたという情報もある。
2001年、新宿・歌舞伎町の雑居ビルで起きた雑居ビル火災でも、44人の死亡者全員が煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒で死亡していたことが分かっている。窓が閉め切られた狭い部屋で、一酸化炭素を含んだ煙が猛烈な勢いで広がった一方、火災報知器や避難器具が使用できない状態であり、防火管理の不備が指摘された。
「今回の火災は歌舞伎町の火災と似ています。雑居ビルでは、火災報知器や避難経路があったとしても、部屋の出入口付近で可燃物がまかれたりすれば、避難経路を失ってしまう。激しい燃焼が発生して避難経路が塞がれたところに狭い空間に大勢の人がいれば、多数の人が短時間で亡くなるケースが出てきます。
密閉空間で燃焼すると不完全燃焼に陥りますから、一酸化炭素ガスが出やすくなる。とくに一酸化炭素は一気に吸い込むと短時間で意識不明になります。煙が大量に出て、そこに含まれている一酸化炭素が大量であれば危険なわけです。ワンフロアがそんなに広くない雑居ビルの多くは、そうした構造にあります」(同前)
今回火災が起きたビルでは、避難するための階段にも大量の煙が入り込み、逃げることができなくなったのではないかという指摘もある。
山村氏は、事件が起きやすいのは雑居ビルに限らないという。
「狭い空間で不特定多数が出入りする場所は、危険なものが持ち込まれると事件・事故が起きる可能性が高くなります。例えば電車もそうです。セキュリティが完璧にできないので、何らかの意図を持った人がそこにいれば、事件が起こり得る。そうした場所では、セキュリティの強化が非常に重要ということになります」(同前)
2008年10月に大阪で起きた個室ビデオ店火災でも、放火により16人が一酸化炭素中毒などにより死亡、10人が重軽傷を負った。そこから全国の個室ビデオ店で防火体制の整備がされるようになった経緯がある。
だが、いくら対策を取っても、狭い空間で悪意ある者による放火を防ぐことは簡単ではないのが現実だろう。