上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)とは肩(腕の付け根)の骨折で、高齢者が転んで手や肩を打ったり、若年者では事故などで強い衝撃を受けたときに発生し、ズレ(転位)が少ない骨折と一定以上のズレがある転位骨折に分けられる。近年、上腕骨近位端が複数に分割されていると手術が選択される傾向にあるが、機能的に問題を残さない下垂位(かすいい)での振り子運動を行なう保存療法も開発され、効果を上げている。
肩関節は体の中で最も大きな可動域を持つ関節で、手を動かす方向を決める大切な部位だ。上腕骨近位端骨折は全骨折の約5%を占めており、腕を上げたり、ひねったりできない。骨折部がくっつかない合併症の偽関節(ぎかんせつ)になると腕が上がらなくなってしまい、日常生活での支障も大きい。
この骨折はズレが少ない非転位骨折(約80%)とズレの大きい転位骨折に分けられる。また骨折の転位の程度によって大きく4つに分類されるが、近年は骨折治療用デバイス(専用器具)の開発が進み、転位の少ない骨折に対しても、手術が施される傾向にある。他にも転位の大きな症例の中には血流が悪く、骨頭(こつとう)が壊死して肩関節に障害が残るケースがあったりする。
前回(週刊ポスト2021年12月17日号掲載)に続き、指の骨折における保存的治療法を開発した、いしぐろ整形外科(神奈川県小田原市)の石黒隆院長に詳しく話を聞いた。
「従来の保存的治療だと3~4週間肩を固定した場合、骨折部周辺に癒着が生じます。まだ骨癒合(ゆごう)は得られていない時期でもあり、リハビリを誤れば偽関節になる可能性が高まります。私が開発した保存療法では骨折部周辺に癒着が起こっていない1週間目前後から、積極的な振り子運動を行ないます。受診時に許容可能な転位の場合にも、そのままの状態で三角巾とバストバンドを使い固定し、下垂位での振り子運動を始めます。この運動は肩関節の動きを維持して骨折面のズレを改善するための運動療法となります」