中国メディアのなかで、強烈な「中国至上主義」の立場をとり、中国に批判的な西側メディアや政治家、評論家らを痛烈に批判してきたことで、西側社会で最も良く知られている「環球時報」紙。その胡錫進・総編集長が辞任し、同紙の特約評論員に就任したことが分かった。
胡氏は辞任の理由として「来年62歳」になるというその年齢を挙げている。しかし、中国の著名な女性テニス選手、彭帥さんの消息不明事件に絡み、自身のSNSアカウントに彭さんの最近の消息を伝える動画を掲載したことで、かえって国際的な批判を浴びる結果となったことが、習近平指導部の逆鱗に触れて解任されたとの憶測も出ている。
胡氏は1960年生まれで、1989年に北京外国語大学を卒業後、中国共産党機関紙「人民日報」に入社し国際部に配属され、1993年から1996年まで同紙特派員としてボスニア紛争を取材。2005年に同紙傘下の国際問題専門紙「環球時報」の総編集長に就任し、以後、16年以上も務めてきた。国際問題や台湾・香港のニュースを中心に辛らつなコメントを発表するなど、大きな影響力が持ち、一部の欧米メディアからは「商業民族主義」と評されてきた名物ジャーナリストとして名を馳せた。
2020年12月には、同紙の女性副編集長から「胡は女性の部下2人と不倫し、2人の隠し子を作った」と実名で党中央紀律検査委員会に通報された。その後の調査で、「事実無根」となったが、この事件で内部にも敵が多いことが証明された形だ。
今回の総編集長辞任についても、米国を拠点とする中国問題専門ウェブサイト「多維新聞網」などは、元副首相に性的関係を強要されたとして告発した彭帥さんの消息不明事件での胡氏の言動が指導部の不興を買ったと報道。胡氏が彭さんの北京でのテニス関連行事出席や、レストランで食事をしている動画を公開したことで、その動画に不審な点が多く指摘され、西側からは中国側が「隠蔽工作を行っている」との疑惑を生み、かえって事態がこじれたとしている。
また、香港紙「星島日報」は胡氏の辞任は人民日報社内の機構改革の一環であり、同社は環球時報の管理や統制を強めようとしており、長年総編集長を務めた胡氏が改革の妨げになるとの理由で解任したとしている。後任の総編集長は人民日報国際部副主任の呉キ(糸へんに奇)敏氏が就き、社長には同紙評論部副主任で、重要な政治的な論評を執筆してきた範正偉氏が就任するという。