【書評】『中国共産党帝国とウイグル』/橋爪大三郎、中田考・著/集英社新書/968円
【評者】嵐山光三郎(作家)
習近平政権になってからウイグル人をはじめとする異民族に対する弾圧が強くなった。中国共産党はなぜ自国民監視を徹底し、香港・台湾支配をめざすのか。日本屈指の「知中」社会学者橋爪大三郎とイスラーム学者中田考が解析する「中国共産党帝国」ウルトラナショナリズムの正体。
中国は「新疆ウイグル」の人権侵害や香港・台湾支配を「国内問題」とし、こちらの意見に「内政干渉だ」と反発する。残念ながら香港は呑みこまれてしまったが、台湾で頑張るしかない。
私は習近平政権以前は、十数回北京・上海へ行き、多くの老朋友(古い友人)を得た。しかし、十年前に日中文化交流協会の一員として、六名で黒龍江省のハルピンを訪問以来、行けなくなった。
中国の古典詩や書や哲学や芸術を愛好する日本人は多く、橋爪氏と中田氏はともに中国文化を敬っている研究者だが「臆病になって、言うべきことを言わない」のが一番まずい。被害を受けて苦しんでいる人びとを見捨てることはできない、というスタンス。これは親中国の日本人が抱いている共通の心情だろう。中国で発祥した漢字が日本の文字となったが「時間をへてヨーロッパの概念が日本で漢字化した」と、橋爪氏が指摘している。
human rightsは「人権」と訳された日本製の熟語で、漢字二字を組みあわせた。中国にはなかった。こういう方法で西洋語に対応した二字熟語は、「物理」「化学」とか、憲法や法律用語に多く、「人民」「共和」「共産党」という熟語も日本製の漢字となった。「人権」は最も重要な言葉であるけれど、国をつくるときに、国以上の価値があるものとされた基本の概念である。
中国には憲法や人権という言葉があっても、中国共産党がそういう考え方で国をつくったわけではない。アメリカや西欧諸国がどれほどウイグルやチベット弾圧を人権問題だと抗議しても、話がかみあわないわけですね。
※週刊ポスト2022年1月1・7日号