今、世界で最も注目を集める韓国発のアイドルグループBTS(防弾少年団)。アメリカのビルボードメインシングルチャート「ホット100」で「Butter」が9週連続首位を飾り、2021年首位最長記録を更新するなど、K-POPの枠組みを軽々と飛び越えて、世界中でそのパフォーマンスは高く評価されている。ただ唯一、世界一の人口を誇る中国でだけ、BTSを巡る複雑な事情があるようだ。
ARMYと呼ばれるBTSのファンたちは今や世界中どこにでもおり、中国の ARMYたちも熱心にファン活動を行なっている。それについて、中国の習近平政権が警戒感を強めているとみられている。
2021年9月に、中国のARMYたちがBTSメンバーのJIMINの誕生日に合わせて、オンラインで大金を集め、JIMINの顔写真やお祝いメッセージがラッピングされた航空機を飛ばしたところ、ARMYたちの中国版・ツイッター「微博(ウェイボー)」のアカウントが停止に追い込まれたのだ。
微博側は「不合理なスター追従行為を断固反対し、厳正に処理する」とコメント。SNSの取り締まりに乗り出し、「有害情報40万件あまり、違反アカウント2万あまり、スレ主6500あまり、スレッド3000あまりを解散させた」という。微博が中国共産党政府の統制下にあることは知られているが、そこでBTSを支持するARMYたちがターゲットとなったのだ。
現在、BTSのウェイボー公式アカウントのリプ欄では、ARMYたちがBTSの地下鉄広告を喜んだりする声などは削除されていると見られ、代わりに「ファンはクソだな。金のあるやつはアルバムを買い、金のないやつは国籍を捨ててやがる(6.6万いいね)」「ファンのアホどもは国籍を捨ててくれ。推し活で自分の国籍も忘れてしまったようだ(4.7万いいね)」「こいつらはまだ若いから、アメリカに原爆を落とされたことがないんだな。一発食らったらいいよ(4.4万いいね)」などのコメントが並んでいる。
中国問題に詳しいジャーナリスト・西谷格氏は、中国政府が背後にいるとみられる厳しい“粛正”についてこう分析する。
「BTSの言葉やファッションが中国の若者全体に影響を与えるようになっては危険なので、影響力を未然に削いでおく必要があると考えたのではないでしょうか。中国政府は、自分たちがコントロールできない存在に影響力を持たれることを嫌悪しているのだと考えられます。禁止まではしないが、BTSが中国の若者に対して影響力を持ちすぎないよう、ほどほどの人気に抑えておく必要があると判断したのではないか」
中国におけるBTSの活動を制御しようとする動きはこれが初めてではない。2021年2月にBTSの所属事務所ビッグヒットエンターテインメントが、決算報告書を発表した際に使用していた地図で、中国が自国領と主張する領域(南チベット)を「インド領」として扱っていたことが分かるやいなや、共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の英字版グローバル・タイムズが「事務所が炎上」と取り上げた。