10月末の衆院選では、自民党が追加公認も含めて単独で絶対安定多数を確保。その民意を受けて、12月21日に閉会した臨時国会では与党が議論の主導権を握ったが、“選挙が終わったからもういいだろう”とばかりに、自らの既得権を温存するための主張が次々と表面化した。わかりやすいのが、衆院選挙区の「10増10減」への異論であり、「月100万円の文書通信交通滞在費(文通費)」の見直し先送りだろう。
現在の衆院選における区分けは、最高裁により一票の格差が「違憲状態」にあると判断されている。人口の少ない地方で議席定数が多く、都会の有権者の“一票の価値”が低くなっているという指摘だ。それゆえ、2016年に衆院選挙制度改革関連法が成立し、2022年以降の衆院選からは人口比を反映した「アダムズ方式」が導入されることが決まった。政治ジャーナリストが解説する。
「最新の国勢調査に基づいてアダムズ方式で算出すると、地方の定数を10減らして、都会の定数を10増やす、『10増10減』となる。この改革は決まったことのはずなのに、今になって自民党内から異論が噴出しているのです。島根選出の細田博之・衆院議長がわざわざ『都会を増やすだけが能ではない』などと批判を展開する異例の状況となっている。背景には、定数が減らされる地方が自民党の地盤であり、大物議員の選挙区が多数含まれているからだと考えられます」
たとえば、アダムズ方式に基づけば定数が4から3に減る山口県は、自民党の大物議員が議席を独占している。山口1区は高村正彦・元自民党副総裁から地盤を引き継いだ高村正大・財務政務官、2区は岸信夫・防衛相、3区は林芳正・外相、そして4区は安倍晋三・元首相という顔ぶれだ。
「定数が3に減れば、4人の現職のうち1人が選挙区を失うことになる。安倍元首相と林外相は、先代の時代からのライバル関係にあるなど人間関係も複雑で、調整が難航するのは必至。さらには、和歌山も定数3から2に減ることになるが、こちらは二階俊博・元幹事長の選挙区がどうなるかという問題が出てくる。自民党選挙制度調査会の出席議員からは異論が続出したが、同調査会の逢沢一郎会長の選挙区がある岡山も定数減の対象。自民党内から既得権を守りたいという本音が噴き出しているようにしか見えない」(前出・政治ジャーナリスト)
方向性が決まっていたはずの改革に対して、選挙が終わった途端になんとか阻止しようという動きが顕在化しているわけだ。さらには、国民から疑問視する声が続出した文通費を巡る改革も、自民党によって先送りされてしまった。
国会議員に非課税で支給される月100万円の文通費は、使途の公開が求められないため国会議員の“第2の給与”と言われてきたが、10月31日の衆院選で当選して「議員になって1日」の代議士にも10月分の100万円がまるまる支給されることが明らかになり、「日割り支給」が議論の俎上に載せられた。