芸能

劇団四季『ロボット・イン・ザ・ガーデン』、「大人も泣ける」と言われる所以

“ダメ男”と“壊れたロボット”の、心温まる旅の物語

“ダメ男”と“壊れたロボット”の、心温まる旅の物語

 2021年12月22日、東京・港区の自由劇場で開幕した劇団四季のオリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。劇団四季が『ミュージカル南十字星』以来16年ぶりに制作した、オリジナル一般ミュージカルだ。これがとにかく「大人がマジ泣きする」と話題になっている。

 原作小説は世界中で高く評価され、2016年のベルリン国際映画祭で「映画化したい一冊」に選出。日本では小学館文庫から同名の翻訳版が出版されており、2022年8月には二宮和也主演で『TANG タング』のタイトルで実写映画が公開予定だ。

 本作は、妻に愛想をつかされた“ダメ男”ベンと、古いロボット・タングが、世界を旅しながら“壊れたパーツ”を直し、人生の“答え”を見つけるまでを描く。

物語は、イギリス南部の町から始まる。敏腕弁護士の妻・エイミーと暮らすベンは、両親を事故で失ったショックで獣医になる夢を諦め、無気力な日々を送っていた。すれ違い始めた2人の家の庭に「タング」と名乗る壊れかけのロボットが迷い込んできたことをきっかけに、さびついていたベンの心と日常が大きく動きだす。

舞台はアンドロイドが人間に代わって家事や仕事をこなす近未来。中にはアンドロイドに仕事を奪われ、反発する人たちも

舞台はアンドロイドが人間に代わって家事や仕事をこなす近未来。中にはアンドロイドに仕事を奪われ、反発する人たちも

ロボットは操作もせりふも二人掛かり

 上演初日、頼りなくも心優しい主人公のベンを演じたのは、田邊真也。2022年10月の再演が発表された『美女と野獣』で過去にビーストを演じたほか、『キャッツ』では、プレイボーイな雄猫のラム・タム・タガーなどを演じてきた。今回の役は、これらの役柄とは大きく異なる雰囲気だが、伸びやかで甘い声色が、ベンのお人好しな人柄や、さえないけれど愛情深い一面にマッチする。

ベンは弁護士の妻・エイミーに「このままじゃニートよ」と愛想をつかされる

ベンは弁護士の妻・エイミーに「このままじゃニートよ」と愛想をつかされる

 一方、同じく開幕初日、しっかりもので優秀な妻エイミーを演じた鳥原ゆきみは、やはり『美女と野獣』のベル役のほか、『ウィキッド』のグリンダ役などでも知られている。明朗な歌声と幅広い音域からは、エイミーの聡明さだけではなく、のんきな夫・ベンへの複雑な女心まで感じ取れる。2人の組み合わせは、まさに“凸凹夫婦”そのものだ。

ベンとの旅を続けるうち、タングはどんどん表情豊かになっていく。

ベンとの旅を続けるうち、タングはどんどん表情豊かになっていく。

 そして本作の“もう1人”の主人公は、ロボットのタング。家事や仕事を超高性能なアンドロイドに任せるのが当たり前になっているこの物語の世界では異質なほど古くて、汚れて、ボロボロだ。なのに、大きな頭とキラキラした瞳、よちよち歩きがなんともかわいらしい。タレ目になってうつむく姿などは、キュンとせずにはいられない。

「日本には、ドラえもんや鉄腕アトムのように、ロボットが人間の道具や敵ではなく“友だち”や“家族”として描かれることを、自然に受け入れる文化があります。原作の要素を忠実に活かしながらも、日本人がより愛着を持ちやすいよう、細部まで調整して、いまのタングのデザインになりました」(台本・作詞を手がけた長田育恵さん)

 そんなタングに命を吹き込むのは、2人のパペティア。子供の背丈ほどのタングに合わせて、全編通して中腰かひざをつく体勢のまま、二人掛かりでタングの足や胴体、腕、まぶたや目の角度などの表情を操作する。開幕初日は、生形理菜と渡邊寛中の2人が息を合わせた。

「タングを動かす2人は、稽古場ではいつも一緒でした。すべての動きが合っていないと生きているように見えないので、いつも相談して、時にはけんかもして(笑い)。まぶたや目も人の手で動かしていますが、操作しているパペティアたちからはタングの顔は見えないので、舞台上であれほどリアルな表情をつくることができるのは、一種の職人ワザです」(演出を手がけた小山ゆうなさん)

 タングと2人のパペティアは、まさに三位一体。動作はもちろん、せりふや息遣いまでシンクロしているところに、ぜひ注目してほしい。

サイバーな雰囲気で表現される、東京・秋葉原の街

サイバーな雰囲気で表現される、東京・秋葉原の街

全編見どころだらけ! ミュージカルの楽しさをギュッと凝縮

 本作は、ベンとタングが世界を旅するロードムービーでもある。ロンドン・ヒースロー空港から旅立ち、アメリカ各地、さらには日本へと、地球を4分の3周も移動する。行く先々で登場する個性豊かなキャラクターとナンバーは密度が濃いうえにテンポもよく、約3時間という上演時間があっという間に過ぎてしまう。

タングの壊れたパーツを直すため、世界中をめぐる旅に出発!

タングの壊れたパーツを直すため、世界中をめぐる旅に出発!

 旅の道中では、男女のロマンチックなデュエット、思わずドキッとするようなセクシーなナンバー、目を疑うほどのハイレベルなダンスと分厚いコーラス、クスッと笑えるコメディ、手に汗を握る緊迫のシーン、そして涙をこらえきれなくなるような結末と、この1作に、ミュージカルで表現でき得るすべての魅力が詰め込まれている。

「“舞台の中央でベンとタングが話しているときに、舞台の端のアンサンブルをよく見てみると、実はそこにも別のドラマがあって…”というように、どこを見ても楽しめるようにつくりました」(小山さん)

 どの場面でも、舞台上に生きる全員が会話を楽しんでいたり、忙しそうに働いたり、けんかをしていたりと、イキイキした姿が見られる。何度観ても、新しい発見がありそうだ。

関連記事

トピックス

精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
ショーンK氏が千葉県君津市で講演会を開くという(かずさFM公式サイトより)
《ショーンKの現在を直撃》フード付きパーカー姿で向かった雑居ビルには「日焼けサロン」「占い」…本人は「私は愛する人間たちと幸せに生きているだけなんです」
NEWSポストセブン
気になる「継投策」(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督に浮上した“継投ベタ”問題 「守護神出身ゆえの焦り」「“炎の10連投”の成功体験」の弊害を指摘するOBも
週刊ポスト
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
九谷焼の窯元「錦山窯」を訪ねられた佳子さま(2025年4月、石川県・小松市。撮影/JMPA)
佳子さまが被災地訪問で見せられた“紀子さま風スーツ”の着こなし 「襟なし×スカート」の淡色セットアップ 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン