脳MRI、頸動脈エコーなどを行なう脳ドックは、脳血管の動脈硬化や脳動脈瘤などの早期発見を目的としている。なかでも脳動脈瘤は、脳動脈の一部がコブ状に膨らんだもので、このコブが破裂すると脳と血管を包む「くも膜」の内側に出血し、くも膜下出血を起こす。くも膜下出血は約半数が命を落とし、一命を取り留めた場合でも重い後遺症が残る可能性がある疾患だ。
だが、脳ドックで脳動脈瘤が見つかったからといって、すぐに手術が必要とは限らないと医療経済ジャーナリストの室井一辰氏は言う。
「すべての脳動脈瘤が破裂するわけではなく、小さい場合は放置していても問題がないケースも多い。それでも『命に関わる』と手術を強く勧める医師もいますが、脳の手術には大きなリスクが伴うことを忘れてはなりません」
脳の表面にある動脈瘤なら、カテーテルを使って比較的簡単に除去できるが、「脳幹」に動脈瘤がある場合は手術のリスクが大きく増す。
「手術中に脳幹を圧迫すると、患者の意識が戻らなかったり、重大な後遺症が残ったりする恐れがあり、最悪命を落とす危険性もあるので、2mm以下の小さなコブであれば、手術には冷静な判断が必要です」(同前)
さらにこんな調査結果もあると新潟大学医学部名誉教授の岡田正彦医師(内科医)が言う。
「英国の権威ある医学雑誌『ランセット』に2003年に掲載された報告では、脳動脈瘤が見つかった約1000人を追跡調査した結果、5年間のうちに9mm超の脳動脈瘤があるにもかかわらず何も治療せずにいて破裂した人は3.8%でした。
一方、予防的に手術を受けた人のうち2.7%が1年以内に亡くなり、術後に生存していた人も9.9%が認知症や脳性まひによる半身不随などの状態になっていた。合わせて12.6%が、手術後に重大な不利益を被っていたことになります。脳ドックで脳動脈瘤が見つかっても、急いで手術せず、様子を見ながら慎重に判断すべきです」
健康診断で必ずといっていいほど受ける心電図検査は、心房細動などの不整脈を見つける検査だが、ここにも過剰診断のリスクが潜む。岡田医師が語る。
「不整脈が見つかってもそれ自体はほとんど命に関わることはありません。むしろ手術や治療薬による副作用のほうがリスクが大きいこともあるので、よく考えるべきです。実際、アメリカでは多くの医師が健康診断での心電図検査は不要と考えています」