ビジネス

【大ヒット小説シリーズ最新作】『トヨトミの暗雲』最終回「名義貸し」

イラスト/大野博美

イラスト/大野博美

 覆面作家・梶山三郎氏のベストセラー小説『トヨトミの野望』『トヨトミの逆襲』は、「小説ではなくノンフィクションなのではないか」と大きな話題になり、経済界を震撼させた。その続編となる第三弾『トヨトミの暗雲』をNEWSポストセブン上で特別公開。最終回となる今回は、巨大自動車メーカー「トヨトミ自動車」の系列ディーラー最大手・おわりも―ターズの社長にある“黒い噂”があるようで――。(第2回「共食い」から続く)

  * * *

親藩と外様大名

 【二〇二一年九月名古屋市塚原カーサービス】

 午後六時半。名古屋市の繁華街・栄で取材を終えた高杉文乃は、市内に住んでいる親族の家に立ち寄るために、クルマを大府方面に走らせた。思えばコロナ禍もあってずいぶんご無沙汰してしまっていた。

 十五分ほどで、幹線道路沿いに「塚原カーサービス」の赤い看板が見えてきた。義兄が経営している中古車や軽自動車の新車を取り扱う店だ。

 中古車展示スペースの脇からクルマを乗り入れると、奥のプレハブ建ての事務室にいた義兄の塚原保がヘッドライトに気づき、外に出てくる。パワーウィンドウを開いて顔を出すと、保は突然の訪問に驚きつつ、整備工場の方を指さした。そこにクルマを停めた。

「よお、文乃ちゃん。久しぶりだな。どうした?」とツナギ姿の保が歩み寄ってくる。

「お義兄さんも久しぶり。隼人に呼ばれてさ」

 保は怪訝な顔をしたが、まあいいや、仕事片づけてすぐ行くから上がってて、散らかってるけど、と小走りで事務室に戻っていった。整備工場の二階が保と息子の隼人の家だ。外階段を昇り、玄関に入ると懐かしい匂いがした。姉の志乃が亡くなって十年。この家に来るとまだ姉の匂いが残っている気がする。

 リビングの仏壇で線香をあげていると、隣の部屋で物音がした。ドアをノックして、はやとー、来たよー、と声をかけるとドアが開き、学生服のままの隼人が顔を出した。会うのは久しぶりだったが、時折LINEで進路の相談に乗っていた。歳は一回り以上離れているが、隼人は甥というより弟という感覚に近い。その隼人から「話がある」とメッセージが来たのは、昨夜のことだった。

「何かあった?」と聞くと、隼人はしばらくもじもじとしていたが、やがて口を開いた。

「おばさん、新聞記者やってるんだよね?」勉強机の椅子に腰を下ろし、隼人は言った。

「おばさんはやめて」      

「母さんの妹だから叔母さんじゃん」と口を尖らせる隼人の頭をげんこつでこつんとやって、文乃はベッドに腰かけた。

「俺、見たんだ。変な奴らに親父が連れて行かれるところ」

「連れて行かれるって、誰に?」

「先月、俺が学校に行くときに男が二人店に来て、親父と話してた。ガラの悪い奴らで気になったから、出かけるふりをして店のクルマの陰に隠れて聞いてたんだ。ところどころしか聞こえなかったんだけど、〝ヤクザ〟とか〝暴力団〟とか言っているのが聞こえて……」

「その人たちにお義兄さんは連れて行かれたってわけね」

「うん。学校から帰ったらもう家にいたけど」

「本人に聞いてみた?」そうたずねると、聞けるわけないよ、と隼人はこちらの語尾にかぶせるように言った。

「盗み聞きしたのがバレるじゃん。それに、その朝は親父とケンカしてたんだ。だから結局聞けずにそのまま……」

 そしてすぐに不安げな顔になる。

「親父、ヤクザに脅されてるのかな?」

関連キーワード

関連記事

トピックス

異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
いい意味での“普通さ”が魅力の今田美桜 (C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』ヒロイン役の今田美桜、母校の校長が明かした「オーラなき中学時代」 同郷の橋本環奈、浜崎あゆみ、酒井法子と異なる“普通さ”
週刊ポスト
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
長浜簡易裁判所。書記官はなぜ遺体を遺棄したのか
【冷凍女性死体遺棄】「怖い雰囲気で近寄りがたくて…」容疑者3人の“薄気味悪い共通点”と“生活感が残った民家”「奥さんはずっと見ていない気がする」【滋賀・大津市】
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者(44)が現行犯逮捕された
「『キャー!!』って尋常じゃない声が断続的に続いて…」事故直前、サービスエリアに響いた謎の奇声 “不思議な行動”が次々と発覚、薬物検査も実施へ 【広末涼子逮捕】
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
再再婚が噂される鳥羽氏(右)
《芸能活動自粛の広末涼子》鳥羽周作シェフが水面下で進めていた「新たな生活」 1月に運営会社の代表取締役に復帰も…事故に無言つらぬく現在
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン