高齢ドライバーによる事故が社会問題化している。2019年に起きた池袋暴走事故のショックがまだ生々しく残る中、2021年11月には大阪府大阪狭山市で、89歳の男性が運転する乗用車がスーパーの敷地内を暴走し、3人が死傷する事故が発生。防犯カメラが捉えた映像も報じられ、歩行者が逃げ惑う様子にゾッとした人々も多かったことだろう。
素朴な疑問として、高齢ドライバーの当事者たちは運転を続けることに不安を感じていないのだろうか。不安を覚えた高齢者が多いからこそ、運転免許の自主返納は増加傾向にあるのだろう。一方、車が運転できないと生活上の不便が生じるため、返納が簡単な選択ではないことも想像に難くない。そうした中、反射神経などの面で技術が衰えてきているのに、運転を続ける、あるいは続けざるを得ないと考える心情とはどんなものか。
『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』(講談社)の監修者である日本交通心理学会副会長で九州大学大学院教授の志堂寺和則氏は、なかなか免許を手放せない高齢者の内面をこのように推察する。
「まずは、『生活が変わるのが嫌だ』ということ。大きな変化に不安を覚えるのは、年齢関係なく誰にでもある感情ですし、年を取ればなおさらです。また、今の高齢者世代は“車”というもの自体への思い入れが強いことも挙げられます。お金を貯めて憧れの車を買って、デートに行ったり、結婚後は家族サービスをしたり、車がある意味で人生の思い出の象徴になっています。一方、今の若者世代にとって、車は単なる交通手段。世代によってイメージのズレがあるのです」(志堂寺教授、以下同)
感情が絡む問題だからこそ、理詰めで免許返納を迫るのは悪手になりかねず、相手の気持に寄り添った対応が必要だ。そのひとつの手立てとして、志堂寺教授の前掲書では、免許返納をお祝いにすることを提案している。返納決定祝賀会、ラストドライブ、“運転卒業証書”贈呈式など、返納までの流れをイベント化し、長年の運転を周囲の人々で労うのだ。このように祝福されたら、高齢者も悪い気はしない。また、このように大々的にイベントを行えば、返納する側の心変わりを防ぐこともできる。
データで見ると、若い世代のほうが事故率は高い
2022年5月からは、一定の違反歴がある75歳以上のドライバーには運転技能検査が義務づけられる。志堂寺教授は実施に賛成の立場を示しつつも、「どれだけ厳密にやれるのか。限られた時間で危険なドライバーをうまく見つけ出すことができるか」と懸念される点も指摘した。