【書評】『米中密約“日本封じ込め”の正体』/菊池英博・著/ダイヤモンド社/1760円
装丁/清水良洋(Malpu Design)
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
11月16日にバイデン大統領と習近平国家主席による初のオンライン会談が行われた。会談の成果について、中国側の報道発表には、米国側の発表にないことが含まれていた。「バイデン大統領が、米国は台湾の独立を支持しない」と発言したというのだ。
この発表に関しては、信憑性を疑う報道も日本ではなされたが、本書を読んでいたら、真実だろうと推測できたはずだ。バイデン大統領の発言は、1972年にニクソン大統領と周恩来首相が国交正常化に向けて合意した内容そのものだったからだ。
米中の基本的な関係は、49年前から基本的に変わっていない。そして本書が指摘する最も重要な事実は、米中の間では、「日本は危険な国であり、軍事面でも、経済面でも、日本を封じ込めなければならない」という合意がなされているということだ。
中国は、米中国交正常化にあたり、日本の駐留米軍に懸念を示した。しかし、会談のお膳立てをしたキッシンジャーは、中国をこう説得したという。「駐日米軍は、中国を攻撃するためのものではない。日本が再び軍事大国化するのを防ぐためだ。憲法9条も、日本の再軍備を防ぐためにある」。
もう10年以上前になるが、テレビの収録で、「なぜ沖縄に米軍がいるの?」という質問に、私はこう答えた。「沖縄にいるのは海兵隊といって、侵攻部隊なんだ。だから日本を守るためではなく、日本がアメリカに逆らったときに、日本を攻めるためにいるんだ」。収録したVTRはボツになり、私は番組を降板させられたが、あながち間違っていなかったと思う。
経済面でも、日本の封じ込めは行われている。80年代まで絶好調だった日本経済は、バブル崩壊後まったく成長していない。日本の不動産や金融業は、次々とアメリカのハゲタカ外資の手にわたり、日本の家電産業は軒並み中国の手にわたった。49年前の合意どおりのことが、現実社会で起きたのだ。日本だけが転落する。それが、米中が描いた近未来なのだ。
※週刊ポスト2022年1月1・7日号