中国の貨幣、人民元を印刷する中国国家銀行券印刷造幣総公司(日本の大蔵省造幣局に相当)の元理事が、自身の権限を利用して2兆元(約36兆円)分もの人民元紙幣を私的に印刷した容疑で当局に逮捕されたとの情報がネット上で拡散している。しかし、中国の中央銀行である中国人民銀行は「それは根も葉もない噂だ」と否定している。
中国では高額紙幣である100元札を中心に偽札が横行していることから、ネット上では「どれが偽札か、本物なのか、分からないじゃないか」などと揶揄する書き込みが上がっている。米国を拠点とする中国問題専門ウェブサイト「多維新聞網」が報じた。
2兆元分もの紙幣の印刷を指示したとされているのは、同総公司の陳耀明・元理事兼党委書記だ。中国人民銀行国家監察委員会駐在の中国共産党中央規律検査監督委員会と河北省監察委員会は2021年12月、陳氏に重大な規律違反の疑いがあり、陳氏は容疑を認めて自首し、現在懲戒審査と監察捜査中であると発表した。
陳氏は1964年生まれで1984年8月、同総公司に入り、2001年8月までの間、総合企画部課長や偽札防止作業委員会の委員、総公司傘下の海南華森実業公司副社長、上海銀行券印刷工場副所長を経て、2001年に同総公司に戻り、党委員会委員兼取締役副社長を務めた。
陳氏は中国人民銀行の造幣部門畑一筋だったが、党中央規律検査委が陳氏の容疑内容を明らかにしなかったこともあってか、ネット上では「陳は勝手に札を刷ったらしい」「その額は2兆元だ」などとの情報が独り歩きして、拡散していった。
このため、中国人民銀行の担当者は12月22日、「これは性質の悪い噂だ」として、ネット上での書き込みは事実無根だと否定。そのうえで、「人民元の印刷と発行には厳格な作業手順と遵守基準があり、中国人民銀行は法律と規則に従って関連作業を実施している。偽情報や風説の流布に関しては公安当局に報告している」として、ネット上のデマ情報に対する捜査が行われる可能性を示唆した。
これについて、さらにネットでは「中国の人民元はただでさえ偽札が多いのに、銀行の担当者が勝手に札を刷っているのならば、どれが本物かどうか分からないではないか」などと当局の対応を批判する声が出ている。
直近では、2020年5月、警察当局が広東省と黒竜江省の偽札印刷工場に踏み込み、中国建国以来最大の総額4億2200万元の偽札を押収し、16人の偽造グループを逮捕した事件などが起きている。