2021年も終わりを迎えようとするなか、プロ野球選手たちは自主トレを始め、年が明ければ2月のキャンプインが迫ってくる。シーズン開幕に向けて選手たちは調整を重ねるわけだが、昭和の時代とは、かなりの違いがあるようだ。そうした景色を眺めた球界OBからは、心配の声があがるとともに、新たな試みへの期待も聞こえてくる。
かつてシーズンオフの若手選手に厳しいトレーニングが課された例として知られているのが、1979年秋の「地獄の伊東キャンプ」だろう。長嶋茂雄監督率いる巨人が静岡県伊東市で約1か月にわたって行なった秋季キャンプである。投手では江川卓氏や西本聖氏、野手では中畑清氏ら当時の若手メンバーが参加した。栄光のV9メンバーが次々と引退していくなか、同年のシーズンを5位で終えた長嶋監督が意識改革のために実施したものだ。
中畑氏は当時のことを「あの地獄の1か月があったことで、“ここまでやったら何か残るんじゃないか”と思えましたね。自分の持っている力の裏付けのようなものを感じられた」と振り返る。
地獄の伊東キャンプが話題にあがったのは、本誌・週刊ポストの1月4日発売号掲載の「2022大予言」特集のための江本孟紀氏、中畑氏、達川光男氏の座談会の取材現場でのことだ。来季の展望について語る座談会のなかで、オフのトレーニングの“今昔比較”が話題となったのである。腹筋や急斜面ダッシュ、素振りなどの基礎的トレーニングをひたすらに繰り返した伊東キャンプの記憶を引き合いに出しながら、中畑氏はこんなふうに語った。
「今の監督は、“試合形式”が好きだよね。練習ってそうじゃないと思うけどね。個々がレベルアップするためには、コーチが指導できる時間を作って、それぞれの選手に合ったマンツーマンの練習をしないと。そういう時間を大切にしてもらいたいと思うけど、秋季キャンプでも“選手の技量を見たい”といってはすぐに試合形式だからね。伊東キャンプを真似しろとまでは言わないけど、秋は1試合もいらないと思うよ」
それに対して江本氏は、「今は自主トレからキャンプ、オープン戦、開幕まで、どうもダラダラしてメリハリがないよね」と応じた。
「鶴岡(一人)監督時代の南海は、その意味ではすごくメリハリがあったんです。オープン戦ではいつも最下位。オープン戦が終わるまでは、選手たちも徹夜で麻雀をしたりとチンタラしているんですが、オープン戦終了から開幕までの1週間で地獄の練習をしたといいますね。練習しないノムさん(野村克也氏)までギンギンに練習したそうですよ。それで開幕に突入して、パ・リーグで黄金時代を築いたわけですからね」(江本氏)
達川氏は広島監督時代、選手に厳しいトレーニングを課したことで知られる。江本氏は「達川が監督になった時は、期待したんだけどね……。シーズンで投げる倍は投げないといけないといって、キャンプでしっかり投げ込みをさせて。言ってることはその通りだと思ったよ」と話を振ったが、達川氏は「うーん、でもみんな故障してね……。投げ込みをする体ができていなかった」と苦笑した。