【書評】『ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所 地獄の2年間』/グルバハール・ハイティワジ、ロゼン・モルガ・著 岩澤雅利・訳/河出書房新社/2805円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
フランスで暮らしていた著者は、かつて勤務した新疆ウイグル自治区の石油会社から「早期退職の書類にサイン」を求められ、里帰りするつもりで帰国したところで身柄を拘束された。娘が「中国による新疆での弾圧に抗議する」フランスウイグル協会のデモに参加した、という理由からだ。そして「七年間の再教育を宣告され、二年以上もとらわれの身」となった。母親を人質にとって、娘の中国批判を封じ込めようとしたのだ。
再教育収容所では中国の「愛国歌」を唱和することから一日がはじまり、「十一時間の教育」で「共産党のプロパガンダをひたすら暗記」させられる。「期限のない勉強」は、「労働で頭の働きが鈍くなった家畜に似て」ウイグル人の批判精神をぼろぼろにしてしまうという。
フランス外務省が「フランス国籍を持つ市民」の失踪事件として中国政府に圧力をかけたおかげで、幸運にも自由の身となった著者は、実体験をもとに収容所の厚いベールを剥いでいく。
本書がフランスで刊行された直後、アメリカのポンペオ前国務長官は、ウイグル人を「ゆっくりと絶滅させる」この収容所を「ジェノサイド」と批判した。
中国をヨーロッパにつなげる陸の要衝であるだけでなく、「天然ガス、ウラン、石油などの地下資源」に恵まれたウイグル自治区を植民地として支配し続けるには、「トルコに起源がある」ウイグル人を中国共産党の思想と同化させる必要がある。そのためには海外在住のウイグル人の動向も監視し、「分離独立思想」の持ち主と見なせば、再教育収容所に送り込んで「洗脳」するのである。
著者が助け出されたのち、中国は批判をかわすために「国連のいろいろな領域に資金を投入」。国連人権理事会の理事ポストを手に入れ、ウイグル自治区への国際政府機関の調査をはばんでいる。これに対し、欧米各国は新疆自治区の「綿製品の輸入を禁じる」など制裁措置を発動した。膨張する中国の本質を克明に描いた一冊だ。
※週刊ポスト2022年1月1・7日号