2019年に起きた池袋暴走事故に代表されるように、高齢ドライバーによる死傷事故が続発している。それらのニュースを見て、高齢の家族が運転を続けていることに不安を覚えた人も多いことだろう。正月は高齢の親と会って、「免許返納」を勧めようという人も多いだろう。しかし、家族が理詰めで免許返納を迫ったところで相手が反発するだけの結果になりかねない。そう指摘するのは、『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』(講談社)の監修者である九州大学大学院教授で日本交通心理学会副会長の志堂寺和則氏だ。
「免許返納に大切なのは、準備です。免許を手放すことで、どうしたって生活の不便は生じます。『危ないから免許を返納しろ』と頭ごなしに言うのではなく、その後の生活をしっかり手伝う姿勢を示すことが大切です」(志堂寺教授、以下同)
免許返納で生じる困りごとに、まず買い物が挙げられる。その不便をなくすためには、ネット配達を勧めるのが一番だ。もちろん、ただ「ネット配達を使え」とだけ伝えても、使えない場合もある。利用方法を丁寧に教え、自分が注文操作を肩代わりするなど、親身にサポートすれば安心できるだろう。
「バスや電車などの公共交通機関やタクシーを使うようにしたらいい」というのも、免許返納を勧めるときに定番のセリフだ。しかし、「その金銭的負担はどうすればいいのか?」というのが返納を勧められた側の本音だろう。
ただ、車検代やガソリン代、保険料など、自動車の維持費は意外と高い。しっかり計算してみると、今まで維持費にかかっていたぶんがゼロになるので、バス代やタクシー代に充ててもそう変わらないケースは少なくない。
「それでも赤字になる場合は、穴埋めを提案してあげれば、相手も気が楽になります。また、バスや電車を久しく利用しておらず、乗り方に不安がある高齢者は意外と多いものです。何度か一緒に乗って、使い方を確認してあげましょう」
近年は、免許返納した高齢者に対する行政のサポートも増えている。バスやタクシーの割引はもちろん、銀行の預金金利が高くなったり、ホテルの利用料やスーパーの配送料が安くなったりするサービスも増えている。そういった地域のサービスまでしっかり調べておくと、免許返納による金銭面の不安を解消するのに役立つ。