新たな1年が始まったこの季節、素敵な本との出会いを楽しんでみてはいかがだろうか。おすすめの新刊4冊を紹介する。。
『同志少女よ、敵を撃て』
逢坂冬馬/早川書房/2090円
母をナチに殺され、鬼の女教官の訓練に耐えて女子狙撃隊の一員となったセラフィマ。彼女達にはそれぞれ、女性の尊厳、コサックの誇り、遊牧カザフ人の自由、子供の命など守りたいものがあった。歴史に残る独ソ戦の激戦地に、怜悧なスナイパーの戦略と戦術、女達の熱い怒りと哀しみが渦巻く。こなれない日本語に時々戸惑うが、それを忘れさせる圧倒的な物語力。凄い、の一言。
『ひとまず上出来』
ジェーン・スー/文藝春秋/1595円
怒った時“そんな怖い顔しなくても”と茶化し、怒りの内容をはぐらかす行為を「トーンポリシング」というとか。勉強になる。再びの一人暮らしをする著者が筋トレに励みながら、40代と20代の違いや、愕然とする外形の変化、体にいい野菜+鶏肉の蒸し料理のことなどを綴る。失礼ながら、気力も体力も減退、少しくたびれてからのほうが、女性の書き手は味わい深くなるようだ。
『小学館の図鑑 NEO 鉄道 DVDつき』
小学館/2200円
日本全国の鉄道車両を機関車や客車などと大きく分類し、会社別、地域別に紹介する。“非鉄の女”でも数日かけて鉄道の旅そのものを楽しむクルーズトレインや、自然の風を浴びるトロッコ列車には旅情をかきたてられる。近未来の交通、阿佐海岸鉄道の DMV(デュアル・モード・ビークル=列車にもバスにもなる)は先の12月25日についに開業。ああ、四国の人がうらやましい。
『ノースライト』
横山秀夫/新潮文庫/935円
著者の中に元々あった文芸色がくっきりと浮上した作。離婚し友人の設計事務所に勤務する建築士の青瀬。「あなたの好きな家を建てて欲しい」という依頼で手がけた自信作から吉野一家が失踪した謎を追う。日本を愛したブルーノ・タウト、青瀬の少年時代、吉野夫妻のルーツ、設計事務所社長の談合疑惑と家族に関わる告白。すべてが有機的に繋がり、心にしみる家族の再生譚に。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年1月20・27日号