2022年は岸田政権の外交手腕が大いに問われる1年となりそうだ。米国と中ロの「東西新冷戦」が極めて深刻化し、日本が直面する課題とは何か、手嶋龍一(外交ジャーナリスト)、谷口智彦(慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科教授)、佐藤優(作家、元外務省主任分析官)の3氏が座談会を行った。【全3回の第3回】
谷口:今年は1972年の日中共同声明から50年の大きな節目です。いつもなら大々的「周年行事」を外務省が催すところですが、まだめぼしい動きがない。自制心が働いているのでしょうか。
佐藤:外務省は岸田さん(文雄・首相)と林さん(芳正・外務大臣)がどの方向を見ているか、行事の催行で安倍さん(晋三・元首相)とどんな軋轢が生じるか、ということを考えているのでしょう。日中関係を深める方向でやれば右派の総攻撃を受けかねないし、中国に厳しく出れば林さんの逆鱗に触れるかもしれない(苦笑)。
手嶋:今こそ草の根で中国人と付き合うべきです。このまま強硬な姿勢を続ければ、「対中包囲網が一層狭まってしまう」と考えている人々はいるはずです。あの国にも強権体制を根底から覆す力になる人々はいるのですから、そうした人々と連携すれば、習近平の独裁体制に痛打を浴びせることができるのではないでしょうか。
谷口:いつの日か中国共産党が倒れて違う政体になる可能性を見越して、その時、大統領候補となりそうな人に今から接触するんだと、そんな発想で動いていた外交官もいました。この種の複眼的思考は必要ですよね。
佐藤:中国問題は“圧”をかけすぎると逆に難しくなる側面があります。旧ソ連は圧力をかけても崩壊しなかったけど、物資を送って支援したら、中からガタガタに崩れました。
中国の場合、共産党体制では人々の心は救えないから、民衆に宗教的アイデンティティが生まれると大きく変わるように思いますね。カトリックが浸透するとか。
谷口:フランシスコ教皇が中国にやたらと秋波を送るのは、先を見越しているという考えですか?
佐藤:その通りです。中国にも共産党系のキリスト教団体があるんです。バチカンが狙っているのは、共産党公認教会との関係を良くして「中から変えてしまう」ことだと思います。フランシスコ教皇は史上初のイエズス会から出たローマ教皇。イエズス会は“軍隊”みたいな組織ですから、インテリジェンス能力も極めて高いのです。