AD(アシスタントディレクター)は、テレビ業界において、リサーチやロケハン、収録の準備・片付けなど、番組制作で発生する広範な作業をこなす。しかし、制作に欠かせない存在である彼らのことを“雑用”や“下っ端”と見下すテレビマンもゼロではない。「おい、AD!」と顎で使うような番組プロデューサーやディレクターが存在するのも事実だ。
そんな現状を変えるべく、テレビ各局は「AD」というポジション廃止に動いている。日本テレビは2021年末、局として「AD」という呼び方をなくし、「YD(ヤングディレクター)」と呼ぶことになったという。業務内容はほとんど同じでも、「アシスタント」という言葉につきまとう従来のイメージを払拭することを狙っている。
しかし、歯に衣着せぬトークで人気を集めるタレントのフィフィ(45)は、この施策に首をひねる。
「最初この話を聞いたとき、バカバカしすぎてギャグだと思っちゃった。これじゃ結局、『おい、AD!』が『おい、YD!』になるだけじゃないの? あと『ヤング』っていうのもね……。AD業務を担当するのは、若者に限りません。YD呼びは、『あの年齢なのに“ヤング”ディレクターなの?』という新たな物笑いの種にされるだけな気がするけど。
一部の業界人はADを下っ端のように扱い、なんなら、そういう“イジリ”を面白がってきました。変えるべきは、ADという呼び方ではなく、彼らの意識でしょ! なんか全然本質的じゃないよね」
テレビ業界の内側にいる人間として、フィフィは、こういった“表面的な対応”が業界の凋落に繋がっていると喝破する。
「メディアの現場は、厳しい職人の世界。師匠と弟子のような関係性の中で、後進が育っていきます。もちろん『愛ゆえの厳しさだから全部OK』というわけではなくて、さすがに時代にそぐわないところは考え直さないといけない。でも、職人の世界に雑にコンプラを持ち込んだところで、ただ上が萎縮して指導がしにくくなるだけでしょ? 時には命の危険につながるような現場だってあるのに、そんなことでいいの?
もっと真剣にモノ作りに向き合っている現場だったら、意識改革を図るにしても、『ちゃんと先輩後輩の信頼関係を構築できているか?』のような本質的な議論が行われるはずだと思います。表面だけコンプラをなぞった風にして、『はい。対応しました』なんて意味がない。だからテレビがつまらなくなるんだよ!」
呼称を変えたところで、その呼称を使う人間側の意識が変わらないと意味がない。YDと異なる呼び名がまた生まれるだけの結果になったりして……。