美味しい料理で人に笑顔を与えてきた人は“最後の晩餐”として何を食べるのか? 料理研究家の小林カツ代さん(享年76)は簡単でおいしい料理が支持され、家庭料理の第一人者として、テレビや雑誌などで活躍。生涯で手掛けた料理本やエッセー本は200冊以上。2005年にくも膜下出血を起こして以来療養を続けるも、2014年多臓器不全のため逝去した。そんな彼女は最後に何を食べたのか。(※文中は敬称略)
やっぱり、うちのご飯はおいしいわね
前日まで大阪出張に出かけていたカツ代は、疲れた様子だった。昼食のまかない作りは本来、新人の担当だが、カツ代を気遣い、内弟子第1号の本田明子さんとベテランスタッフの2名で作ることに。献立は、茹で豚とブロッコリーの梅酒だれ、卵焼き、切り干し大根、かぼちゃと薄揚げのみそ汁、ご飯というオーソドックスなもの。
その日は事務所で打ち合わせがあり、客人を含め、スタッフみんなで食卓を囲んだ。「やっぱり、うちのご飯はおいしいわね」と、カツ代は珍しくご飯とみそ汁をおかわりしたという。
「食後のコーヒーを、その日は『濃いめで』と言ったんです。いつもは薄めなのになぜ? と思いました」と、本田さん。昼食後、仕事を再開してすぐに頭が痛いと訴え、医者嫌いのカツ代が「病院に行く」と言うので、慌てて救急車を呼んだという。この2005年のくも膜下出血以降は療養を続けたが、表舞台への復帰はかなわなかった。
「先生の周りは笑いが絶えないんです。まかないを食べながら『あら? これ、どうやって作ったの?』と指導が始まる。あの声が懐かしいです」(本田さん)
カツ代は一食の味付けのバランスに厳しく、同じ調味料を何度も使わないよう教えた。この日のまかないも、茹で豚とブロッコリーの梅酒だれは濃口しょうゆ、卵焼きは塩とみりん、切り干し大根は薄口しょうゆ、かぼちゃと薄揚げのみそ汁は白みそで調味された。
撮影/鈴木泰介 取材・文/スペースリーブ(湯山幸奈、加藤瞳)
※女性セブン2022年1月20・27日号