昨年末には大々的に消費キャンペーンが行われた「牛乳」。「完全栄養食」と位置付けられることがある一方、逆に「牛乳を飲むと不健康になる」との説もある。こういった論争について、小田原短期大学食物栄養学科の平井千里准教授はこう語る。
「牛乳の栄養価の高さを疑う余地はありません。カルシウムやタンパク質にミネラルといった栄養素を豊富に含みます。ただし、飲み過ぎるとカロリー過多やカルシウムの過剰摂取で結石ができやすいといった不具合が起こることも考えられます。完全栄養食とは言えないが、適量を摂る分には体に悪いものではありません」
これを踏まえたうえで、栄養学の面から「牛乳不健康説」を検証してみよう。
まず「日本人は牛乳を消化できない」という説についてはどう考えればいいのか。
「牛乳に含まれる糖分である『乳糖』を分解できない症状を『乳糖不耐症』と言います。それが原因でお腹を壊したり、下痢を引き起こすことがあります」(平井氏)
実際に「お腹を壊すから牛乳が嫌い」という声は少なくない。そのため、「そもそも日本人の体には合わない」といった極端な主張もある。
「欧米人と比べて日本人には一定数の乳糖不耐症の人がいることは確かですが、“日本人は”とひとくくりにするのは言い過ぎでしょう」(平井氏)
もし腹を下しやすいようなら、乳酸菌の発酵によって乳糖を分解してあるヨーグルトを摂ると、乳糖不耐症が生じにくいという。
「牛乳を飲むとカルシウムが排出されて、骨粗しょう症になる」という説も近年、注目を集めた。カルシウムが豊富なはずの牛乳を飲むことで、逆に骨がスカスカになるという「カルシウムパラドックス」を引き起こすというのだ。
その論拠の一つとして挙げられるのが、牛乳に含まれるミネラルの一種であるリンの存在だ。リンは体内から排出される際にカルシウムを伴うため、「いくら牛乳を飲んでもリンがカルシウムを体外に排出してしまい、カルシウム不足で骨粗しょう症になる」というわけだ。平井氏が指摘する。
「カルシウムとリンは相性がよく、体内で結びついて排出されるのは事実です。しかし、牛乳に含まれるリンはわずかな量に過ぎません。体内に蓄積されずに排出されるのはさらにわずかな量であり、牛乳単体で骨粗しょう症を引き起こすとは考えにくい。つまり、牛乳に含まれるリンを気にして不安がる必要はありません。むしろ、牛乳よりもはるかに多くのリンを含む加工食品のリスクに注意すべきです」