「コロナと土砂災害で一気に人が減りました。ただ、花火大会のようなイベントがある日はお客さんも増えるんですよ。もっとイベントがあるといいけれど」──そう語るのは静岡県熱海市の地元タクシー運転手。観光地再生の途上を襲った新型コロナウイルス禍、人災の側面を持つ土砂災害と、たび重なる苦境に立たされた観光地、熱海の現在を取材した。
国内有数の温泉街がある静岡県熱海市は、首都圏からも近い観光地として昭和初期より庶民に親しまれてきた。しかし平成に入って以降はバブル崩壊による景気の低迷や生活スタイルの変化による団体旅行の減少に伴い、観光客数が下降傾向へ。熱海駅の乗降客数は1980年前後に1日平均5〜6万人だったのに対し、2000年以降は1万人前後へと激減した。
こうした状況を打開すべく、2006年に熱海市は「熱海市財政危機宣言」を発表(翌年、「熱海市財政再建スタート宣言」に名称変更)。行政が観光振興事業に注力するようになると、交通網の整備や熱海駅のリニューアルなどが功を奏し、観光客数は徐々に増加へと転じていく。2011年にはピーク時の半分の246万人だった観光客が、2015年には308万人へと20%以上も増加。2017年に観光庁が発行した観光白書の中で地方創生の先駆者として熱海市が取り上げられるなど、V字回復した活況は「熱海の奇跡」と呼ばれるまでになった。
そんな矢先の2020年初め、コロナ禍が到来した。感染拡大を防ぐために旅行の自粛が叫ばれ、観光業に大きなダメージがもたらされた。さらに翌2021年7月には熱海駅から徒歩圏内にある伊豆山地区で大規模な土砂災害が発生。きっかけは豪雨だったが、土地開発における盛り土の杜撰な管理が甚大な被害へと繋がった。土石流に覆われた伊豆山地区は、現在も多くの道路が通行止めとなっており、半壊状態の建物がそのままの姿で点在しているなど、爪痕が残されたままだ。