2022年序盤の東アジアは、コロナ禍で開かれる冬季五輪北京大会(2月)、中国の国会にあたる全国人民代表大会(3月)、与野党候補の支持が拮抗しスキャンダル合戦が続く韓国大統領選挙(3月)など、重要な政治日程が目白押しだ。そうしたなか、韓国メディアの報道をきっかけに、中国と韓国の間で両国の歴史問題をめぐる議論が活発化しているという。歴史作家の島崎晋氏が解説する。
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韓国の抱える歴史問題、と聞くと、日本とのあいだでしばしば議論となる「従軍慰安婦」か「元徴用工」に関する戦後補償問題などを思い浮かべる人が多いのではないか。しかし実際は、日本だけではなく、韓国は黄海を挟んで隣接する中国とのあいだにも歴史論争が存在する。
韓国紙『朝鮮日報』日本語版は2022年の年明け以降、立て続けに「中韓歴史論争」に発展しかねないニュースを配信。1月3日には、〈中国、古朝鮮・高句麗の遺跡を「満州族の文化」と歪曲〉という衝撃的な見出しで報じた。
同記事によると、中国・吉林省通化市にある遺跡について、朝鮮半島から中国東北部にかつて存在した高句麗(紀元前1世紀〜7世紀)のものであることは明白なのに、中国当局は新たに設けられた博物館や遺跡関連施設において、満州族の文化として扱い始めたという。この措置に対し、「中国が高句麗ではなく満州族を前面に押し出すのは[中略]事実上高句麗史を削除するレベルに入ったことを示唆している」(韓国・東北アジア歴史財団のパク・ソンミ研究委員のコメント)として、怒りをあらわにしたのが上の記事だった。
高句麗とその前史である古朝鮮の遺跡およびそこからの出土品を見れば、前後の時代との文化的な連続性は明らかで、「満州族の文化」とするのは明白な歪曲である、というのが記事の主張だ。
果たして中国と韓国どちらの言い分に理があるのか。ここで着目すべきキーワードは、「満州族」である。満州族は中国政府により公認されている55の少数民族の一つだが、満州が民族名として正式採用されたのは1635年のことで、それまではジュシェン(女真)と称していた。