アルツハイマー病の夢の治療薬「アデュカヌマブ」。昨年6月に米国で承認されたこの新薬は、病気の進行に直接介入する初の根本治療薬として大きな期待を集めている。
認知症の7割近くを占めるアルツハイマー病は、タンパク質「アミロイドβ」の脳内への蓄積が原因の一つと見られている。アデュカヌマブはアミロイドβを減少させる効果があるという。
同薬を開発した米バイオジェンとエーザイの治験では、蓄積したアミロイドβを6~7割減らし、認知機能の悪化を防ぐ効果があったとされる。
日本でも早期承認が期待されたが、昨年12月、厚労省の専門部会では製造販売承認申請が認められず「継続審議」となった。なぜ承認が遅れたのか。新薬の治験に参加した認知症専門医の眞鍋雄太医師(神奈川歯科大学高齢者内科)が言う。
「昨年暮れには日本でも承認される見込みでした。意外にも長引いている理由は2つ考えられます」
まず1つ目は「国際的な共同臨床試験の結果をどう見るか」の問題だ。眞鍋医師が解説する。
「日本を含む20か国で、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)と軽度アルツハイマー病の人を対象にした同様の臨床試験が2つ行なわれた結果、一方では症状の改善が見られたものの、もう一方の試験では有効性が示されませんでした。
薬事承認を行なう米食品医薬品局(FDA)で同じデザインの治験でなぜ結果が違うのかが議論になり、一度は否定的な結論がまとまった。ただ、その後に製薬会社側が『いずれの試験でもアミロイドβは減っており、そこに大きな意義がある』と主張した結果、2回目の審査で“条件付き承認”となったのです」
日本の状況は「米」と「欧」の中間
日本で承認が遅れる理由のもう1つは、「製薬会社の理論武装に時間が必要になる」からだという。
「米国では『追加の臨床試験で薬の効果を見極める』という条件付きでの承認でした。日本の審査では米国での承認時よりも綿密な論理構築の必要がある」(同前)
米国とは異なりEUの欧州医薬品庁(EMA)は昨年12月、アデュカヌマブの有効性や安全性の不確かさを理由に承認を見送った。今後の見通しも厳しいようだが、日本での承認はどうなるのか。発売元のエーザイ広報担当者はこう回答した。
「追加の臨床試験を条件に承認した米国と違い、欧州当局はアデュカヌマブにより否定的な見解を示しました。日本の審査状況は米国と欧州の中間という感じで、追加データの提出が厚労省より求められています」