今年も本格的な大学受験シーズンがやってきた。試験会場には、若者たちに交ざり「学びなおし」を目指す中高年受験生の姿もある。一昨年、44歳にして超難関私大の慶應義塾大学に合格した男性もその一人だ。だが、彼の人生の歩みは実に波瀾万丈だった──。(前後編の前編)
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広島県福山市にある小さな学習塾「フジゼミ」。学歴・経歴・年齢を不問とするこの塾では一般学生に交ざり、高校中退者や社会人が勉学に励む。中でも異色だったのが、慶應義塾大学合格を目指す元暴力団組員の塾生だ。
教室の一番前に陣取り、中学校の教科書を広げて悪戦苦闘するスキンヘッドの中年男性の姿は、地元テレビ局のドキュメンタリーでも紹介された。
自身も2度の高校中退歴があり、「訳あり」の塾生を支援するフジゼミの藤岡克義塾長が語る。
「ウチには暴走族や暴力団の準構成員も来るけど、彼は服役経験があって小指がない“本物”でした。中学にもまともに通っておらず学力は小学生レベルで、このままなら合格の可能性はほぼ0%と本人に伝えたこともある。でもそんな人物が慶應に合格すれば、世の中に勇気を与えられると信じて指導していました」
フジゼミで受験勉強を始めてから4年後の今、彼は慶應大学の日吉キャンパスに通って充実した学生生活を送っている。
夢を叶えたこの男性に話を聞いた。
「入学後はコロナでオンライン授業が続きましたが、昨年からようやく対面授業が始まりました。やはり慶應は富裕層の子女が目立ちますが、中には雑草のように頑張る子もいます。類は友を呼ぶではないけど、そんな子らと仲良くなりました」
笑顔で語るのは、2020年4月に慶應大学に入学した斎藤由則氏(46)。44歳にして「慶應ボーイ」となった斎藤氏は波瀾万丈の人生を送ってきた。
1975年、神奈川県小田原市に生まれたが、実家には幼い頃から借金取りが押しかけた。やがて父親と血がつながっていないという事実を知り、人間不信から非行の道に走った。小6で飲酒と喫煙を始め、中学ではカツアゲや万引きを繰り返して保護観察処分に。中学卒業後は暴走族に入った。
神妙な面持ちで斎藤氏はこう振り返る。
「あの頃は失うものがなく、悪いことをして目立ちたいとの気持ちしかありませんでした。中学を出て様々な職に就いたけど長続きせず、傷害罪などで鑑別所送りになり中等少年院にも入りました」(以下、カギ括弧内は斎藤氏)