51歳で現役最年長力士だった華吹(序二段、立浪部屋)が初場所を最後に引退した。師匠の立浪親方(元小結・旭豊)によれば「3月に断髪式を予定している」という。部屋の師匠よりも“先輩”であるという異色の力士は、どんな思いで現役を続けてきたのか――。
華吹の初土俵は昭和61年3月場所。現理事長の八角親方が保志(のちに北勝海)として初優勝した場所だった。同期が前理事の山響親方(元前頭・厳雄)で、師匠の立浪親方の初土俵は1年後の昭和62年3月場所である。
現役生活35年間で積み上げてきた勝ち星は683。通算1187勝の白鵬が引退したことで、現役力士では玉鷲の714勝に次ぐ2位の数字だった。短命横綱の大乃国(現・芝田山親方)の560を大きく上回り、朝青龍の669さえ凌ぐ数字である。負け数の788は玉鷲の692に大差をつけて1位だった。
華吹の最高位は三段目で、1場所に7番までしか取ったことがない。つまり1年で取れる相撲は最大42番となり、勝率5割で年間21勝。それで683勝を積み重ねたのだから、35年間ほとんど休まずに土俵に上がり続けたわけである(休場はわずか13)。
本誌・週刊ポストでは先代の立浪部屋時代から30年以上、ちゃんこ長として立浪部屋の力士たちの健康管理をしてきた華吹を何度も取材している。ちゃんこの仕度の合間に、長い現役生活についてこんな話をしたことがある。
「稽古の時間ですか? ちゃんこの仕込みがあって、十分にないですね。稽古が不足した分は午後からジムに通って鍛えています」と話したうえで、こう付け加えた。
「正直な話、自分の相撲より献立が気になって(苦笑)。毎日のちゃんこの具材はその日の差し入れや冷蔵庫の中を見て決めます。余った食材はすべて使うが、何を足せばどんな料理が作れるかを考える。若い力士には白飯をたっぷり食べてもらうために鍋の味付けを濃くし、付け合わせにも工夫します。食欲が落ちる夏場には大根おろしを使って喉の通りをよくし、ニンニクやニラを使ってスタミナ面も注意している」
手間とお金を掛けずに栄養満点。これが力士飯だと話していた。そんな華吹の長い現役生活の中でハイライトは2003年(平成15年)9月場所だった。
「西三段目74枚目で初日から6連勝。7連勝なら幕下昇進、優勝決定戦に勝てば三段目優勝だったが、最後の一番で負けてしまった。現役で最もプレッシャーのかかった一番だった(苦笑)」