ライフ

【書評】掛け値なしの昭和史の超一流資料 昭和天皇と宮内庁長官の対話録

『拝謁記1 昭和天皇拝謁記――初代宮内庁長官田島道治の記録』著・田島道治

『拝謁記1 昭和天皇拝謁記――初代宮内庁長官田島道治の記録』著・田島道治

【書評】『拝謁記1 昭和天皇拝謁記――初代宮内庁長官田島道治の記録』/田島道治・著/岩波書店/3300円
【評者】平山周吉(雑文家)

 掛け値なしの昭和史の超一級史料である。原本を初めて手にしたNHKの記者も、本書の編集委員である研究者も、衝撃と驚きの声を挙げているが、ページをめくる私も随所で驚きと、さらに戸惑いに襲われた。昭和史の書き換えは本書の完結と同時に必至だろう。

 ここまで具体的に昭和天皇と田島道治宮内庁長官の二人だけの会話が克明に記されているとは。田島は後にソニー会長となるのだが、この時点でテープレコーダーが存在していたと錯覚してしまう。息遣いや表情までが浮かんでくる対話録なのだ。この『昭和天皇拝謁記』をもとに作られたNHKの番組での、田島役の橋爪功と天皇役の片岡孝太郎―二人の苦衷の名演技は、これだけの材料があったからかと納得させられる。

 宮廷の外部から招聘された憂国の銀行家は宮中の意識改革、経済改革、それから昭和天皇の意識改造を担わされる。記録は宮内府長官となった昭和二十三年(一九四八)六月の八ヶ月後に始まる。やっと天皇との信頼関係が構築されたからなのだろう。記述は徐々に詳細になる。私が一番驚いたのは昭和二十四年九月七日だ。

「[終戦時の]自決者は大体戦争犯罪人[に]なるのがいやで自決したとの仰せ。田中静壱と阿南[惟幾]だけは別、本庄[繁]も杉山[元]も皆戦犯となることを避けてだとの仰せ」

 遺族が耳にしたら何と思うだろうか、それこそ「胸が痛む」。この後、東京裁判の被告たちへの容赦ない寸評が続く。十二月十九日の感激する田島の「落涙滂沱」と併せ味わうべき「御言葉」である。

「小室圭問題」が頭にちらつくせいか、昭和天皇の皇女孝宮と鷹司平通との結婚、皇室の財政、内廷費で苦心する田島の苦労も身に沁みて読んでしまった。加藤恭子『田島道治―昭和に「奉公」した生涯』によると、田島は長官としての交際費を捻出するために、田園調布や成城の土地を全部売った。孝宮の結婚が十六年後に不幸な結末を迎えると、責任を感じ、お詫びに参上している。

※週刊ポスト2022年2月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【独占直撃】元フジテレビアナAさんが中居正広氏側の“反論”に胸中告白「これまで聞いていた内容と違うので困惑しています…」
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中、2人は
《憔悴の永野芽郁と夜の日比谷でニアミス》不倫騒動の田中圭が舞台終了後に直行した意外な帰宅先は
NEWSポストセブン
富山県アパートで「メンズエステ」と称し、客に性的なサービスを提供したとして、富山大学の准教授・滝谷弘容疑者(49)らが逮捕(HPより)
《現役女子大生も在籍か》富山大・准教授が逮捕 月1000万円売り上げる“裏オプあり”の違法メンエス 18歳セラピストも…〈95%以上が地元の女性〉が売り
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(Instagramより)
〈シ◯ブ中なわけねいだろwww〉レースクイーンにグラビア…レーサム元会長と覚醒剤で逮捕された美女共犯者・奥本美穂容疑者(32)の“輝かしい経歴”と“スピリチュアルなSNS”
NEWSポストセブン
永野芽郁のCMについに“降板ドミノ”
《永野芽郁はゲッソリ》ついに始まった“CM降板ドミノ” ラジオ収録はスタッフが“厳戒態勢”も、懸念される「本人の憔悴」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
日本人メジャーリーガーの扉を開けた村上雅則氏(時事通信フォト)
《通訳なしで渡米》大谷翔平が活躍する土台を作った“日本人初メジャーリーガー”が明かす「60年前のMLB」
NEWSポストセブン
スタッフの対応に批判が殺到する事態に(Xより)
《“シュシュ女”ネット上の誹謗中傷は名誉毀損に》K-POPフェスで韓流ファンの怒りをかった女性スタッフに同情の声…運営会社は「勤務態度に不適切な点があった」
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(時事通信社/読者提供)
《動機は教育虐待》「3階建ての立派な豪邸にアパート経営も…」戸田佳孝容疑者(43)の“裕福な家庭環境”【東大前駅・無差別切りつけ】
NEWSポストセブン
未成年の少女を誘拐したうえ、わいせつな行為に及んだとして、無職・高橋光夢容疑者(22)らが逮捕(知人提供/時事通信フォト)
《10代前半少女に不同意わいせつ》「薬漬けで吐血して…」「女装してパキッてた」“トー横のパンダ”高橋光夢容疑者(22)の“危ない素顔”
NEWSポストセブン
“激太り”していた水原一平被告(AFLO/backgrid)
《またしても出頭延期》水原一平被告、気になる“妻の居場所”  昨年8月には“まさかのツーショット”も…「子どもを持ち、小さな式を挙げたい」吐露していた思い
NEWSポストセブン
露出を増やしつつある沢尻エリカ(時事通信フォト)
《過激な作品において魅力的な存在》沢尻エリカ、“半裸写真”公開で見えた映像作品復帰への道筋
週刊ポスト
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン