まだまだ寒いこの冬。暖かい部屋の中で読書を楽しむのはいかがでしょうか。注目の新刊4冊を紹介します。
『ミーツ・ザ・ワールド』
金原ひとみ/集英社/1650円
泥酔していたところを美貌のキャバ嬢ライに助けられた銀行勤務の由嘉里。焼肉漫画のキャラ推しという二次元に生きる由嘉里は、死にたいと言うライをこの世に引き留めるべく、三次元(現実)世界と格闘し始める。歌舞伎町、ホスト、家族を捨てた女小説家、ゴールデン街のママ。夜に偏った設定ながら、腐女子の由嘉里が現実思考を拡張していく純な成長小説で、読後感は明るい。
『旅の絵本Ⅹ』
安野光雅/福音館書店/1760円
安野氏没後に遺稿が発見された「旅の絵本」シリーズ10巻目。いつもの馬に乗った旅人が石造りの街を抜け、運河を渡り、風車やチューリップ畑を過ぎ、草原で虹を目にする。アンネ・フランク、エッシャー(氏のデビュー作はエッシャー風『ふしぎなえ』)、ゴッホ、フェルメールらの生きたオランダに誘われる。「ゴッホの生家を買わないか」という話があったとの逸話にはびっくり。
『妄想美術館』
原田マハ、ヤマザキマリ/SB新書/990円
2人の暮らしがまずアート。「イタリアの家は元貴族の屋敷で3LDKなのに300平米あって」(ヤマザキ)、「私のパリの拠点も元貴族の館でドアを開けると目の前がセーヌ河」(原田)。偏愛する画家や美術館を挙げ、邸宅美術館には妄想を植えやすいとか、いや大規模美術館も捨てがたいと盛り上がる。小学館さん、本書に出てくる偏屈蒐集家バーンズの伝記、お願い、文庫で出して!
『ナナメの夕暮れ』
若林正恭/文春文庫/759円
生きづらさの正体を当事者が暴く。例えばスタバでグランデと言えないのは気取ってるように見えるから。ハロウィンの仮装も海外一人旅もスカしてる。でもある日気づく。楽しくないぞ。若林青年は自分の好きや楽しいを書く肯定ノートを作り、自分肯定は他者肯定だと悟る。今では忌避したゴルフも好きに。東の笑いが西と一味違うのは、含羞の有無かもしれないなと思わせる。
※女性セブン2022年2月10日号