テレビ業界におけるアシスタントディレクター、ADという略称の方が知られている肩書きは、演出補佐などと呼ばれることもある職種だ。だが一般的には、演出をする人というよりも、バラエティ番組でたびたび出演者にからかわれる下働きのイメージが強いだろう。その「AD」という呼称をテレビ各局が廃止する動きが相次いでいる。ライターの宮添優氏が、呼称変更の本当の目的を探った。
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「ADといえば、一番の下っ端、半人前ってイメージですかね。数年前からそれぞれの部署で、ADの呼称を変えようという動きはありましたが、日テレさんは社としてやるんだと。まあ、ふーんという感じですが」
日本テレビを始め、テレビ各局で「AD」という呼称を廃止する動きが出ているという報道を見て、日テレほか都内の複数キー局に出入りし、バラエティ番組制作を担当しているフリーディレクター・小島誠氏(仮名・40代)はフフン、と鼻を鳴らす。
「日テレではADでなく『ヤングディレクター』とか、報道だと『ニュースアシスタント』などと呼ぶようですが、仕事内容が変わるわけじゃない。相変わらずの激務薄給。どの局でも似たようなもんで、呼び方だけ変えられてもね……と、呼び名が変わるAD本人たちは冷めた感じ。それに、年を追うごとにADの数が少なくなってきて、本来であれば20代後半で中堅のはずなのに、いまだにADから抜けられない人もいる。ADという呼称をなくすことが話題になっていますが、現実には、もうADの存在自体が希少なわけで」(小島さん)
ネット上には「名前を変えるだけ」「本質は何も変わらない」という指摘が相次いでいるが、そもそもADのなり手は減少傾向にあった。会社に泊まり込むほど忙しく、しかし給与は安く、上司には怒鳴り散らされる悪質な労働環境と待遇のイメージが強いからだ。小島さんいわく、「ADの呼称変更」は、負のイメージを払拭して志望者不足解消を狙った取り組みだという。また、ある民放局の情報番組プロデューサー・佐々木直也氏(仮名・40代)も、同様の見方を示す。
「10年くらい前までは、テレビ局の仕事はまだ人気だった気がします。ADは激務で辞める奴も多いですが、入ってくる人間もたくさんいた。でも、最近はテレビのブランド価値も低下し、ADから入って頑張ろうという若手も減ったんです。だから現場では、ADの負担を減らしたり試行錯誤したんですが、やはり人が来ない。今いるADに甘くなりすぎて、中堅ディレクターが疲労し、内部がぐちゃぐちゃになったという部署もある」(佐々木氏)
そして、安くて簡単にコマ扱いできるAD、変えはいくらでもいるというAD、なんていう弱い立場の存在がないと制作現場がまわらない実態があった、と佐々木氏は正直に吐露する。もちろん、そんな現場の雰囲気は、AD本人が一番理解している。都内の民放キー局で情報番組を担当する元ADで、現在はAP(アシスタントプロデューサー)を務める丸井渚さん(仮名・30代)が絶望感を滲ませる。
「ADの給与は手取り15万円程度でボーナスもありませんから、都内に住むにしても、局の近くには住めません。多忙だから、自宅に帰る余裕もなくなり会社に寝泊まりし、食事はほとんどコンビニ弁当。昔みたいに経費で食事ができるなんてこともなくなりました。昔は一番組に何十人もいたADですが、薄給激務に加え、一人のADが何人ものディレクターやプロデューサーの仕事をこなさなければならず、以前にもまして辞めていきます」(丸井さん)