健康な生活を送るための1つのバロメーターとなるのが、家の中の状況だという。介護の現場で働く人たちに話を聞くと、元気な高齢者の部屋と状態が悪い高齢者の部屋では、それぞれ特徴があるというのだ。20年以上介護に携わるベテランケアマネジャーはこんな指摘をする。
「まず住環境でいうと、100才を超える人は一戸建てに住んでいることが多い。一方で、早く亡くなってしまう人はアパートやマンションを借りて住んでいることが多い。これは、立地などに関係なくほとんどの場合で該当しています」
なかでも、介護が必要になる人に多く見られるのが、整理整頓ができていない部屋だ。看護師で心理カウンセラーの大軒愛美さんが言う。
「顕著なのが、定期処方の薬が袋に入ったまま、その辺にポンと置いてあったり、飲みかけのペットボトルがあちこちに散らばっている。本や新聞が乱雑に積んであるのも目立ちます。日常生活に必要なものが、ベッドの半径1m以内に無作為に置いてある部屋は危険信号です」
前出のケアマネジャーも続ける。
「ものが多い、少ないというより、元気な人は、新聞や爪切りなど身の回りのものを置く“定位置”を決めている。高齢になっても『ちゃんとしよう』という意識がある」
ただし、「整理」と「片づけ」は似て非なるものであることも理解しておきたい。社会福祉士でケアマネジャーの中村雅彦さんが言う。
「介護を受ける人にとって、家の中にものがたくさんあることは必ずしもマイナスではないんです。たとえば部屋の入り口に段ボールが積み上げてあったり、使っていない棚があったとしても、足元がふらつく人にとっては“掴まる場所”として機能していることもある。車いすを利用している場合などは別ですが、部屋の中はガランとしすぎない方がいい。
実際に、歩行器を使っている人の家で、その娘が帰省した際に部屋中をきれいに片づけてしまい、つかまるところがなくなって転倒したことがありました」
同様に、よかれと思ってやりがちなのが「バリアフリー化」だが、これも考えもの。
「バリアフリーにする目的は、運動機能が低下した人が動きやすい環境にすることです。しかし、まだ運動機能が高い人がバリアフリーでフラットになった部屋で暮らすと運動負荷が小さくなり、フレイル(心身の脆弱化)を起こしやすくなる。居住環境と体の機能がマッチしていることが長生きの秘訣です」(中村さん・以下同)