21才で大腸がんステージIVの宣告を受け、22才で結婚、23才で娘を出産。2021年9月、闘病の末に24才で亡くなった遠藤和(のどか)さんが1才の娘のために綴った日記をまとめた『ママがもうこの世界にいなくても』。「夢中になって読みました」と話す書店員の新井見枝香さん(41才)は「和さんの人生観が新鮮」と語る。
* * *
書店員という仕事柄、何冊もの闘病記に触れてきました。これまで闘病記を読んだときには「悲しいけれど、自分に何ができるわけでもないし……」とやりきれない気持ちになっていたけれど、『ママがもうこの世界にいなくても』は違いました。もちろんつらいシーンもあります。でも、つらい場面よりも、普通の女の人が、好きな人と結婚して、子供を産んで、家族みんなで仲良くて……という、幸せな場面の方が印象に残りました。こんなにがっつり仲の良い家族、珍しいんじゃないかな。
ジェンダー平等が叫ばれるこの時代、女性が「お母さんになりたい」と素直に言えないような風潮があるような気がします。単純に「子供が欲しい」と思う女性も減っていると思う。そんななかで、和さんは、きっぱり結婚と出産を決めていて素敵だと思いました。好きな人と出会って、子供を産んで、育てる。そういうことを何の疑いもなく「したい」「うれしい」「幸せ」と思えること自体が新鮮でした。「子供をもつ」ということに関して、頭で考えすぎたり、変な自己意識が邪魔をしたり、素直に考えることのできない人も多いと思うから。
入院前には夫と娘のために必ず作り置きのご飯をつくるところとか、一昔前の“素敵な奥さん”みたいですよね。「ご飯は絶対につくる!」というタイプのお母さんっているいる! と思いました。和さんのお母さんもそんな感じだし、私の親もそうでした。具合が悪いなら出前で済ませればいいのに、「味噌汁だけはつくる!」とか言って(笑い)。私たちの母親世代ならまだしも、和さんは20代前半。かえって、”新しい”と感じたんです。
「女性ばかりが料理をするのが当たり前ではない」、確かにそうです。でも、いままでそういう生き方をしてきて幸せだった人はいただろうし、いまでも、それが幸せだと信じている人もいる。「自分がやりたい、やってあげたい」という気持ちがある人たちの存在をなかったことにして「女性ばかりがやらされている」と主張するのは、ある意味では乱暴なのかもしれないのだと気づきました。世の中には、すべてを無理にひっくり返さないでいいこともあるのかもしれません。和さんの人生観は、そう立ち止まって考えさせられるものでした。