都営浅草線の日本橋駅から徒歩1分、江戸時代から町人文化の中心だったこの地で商いを続けて70年を超える『小野屋』。
永代通りに面するビルの青くい看板が目印。庇には「LIQUOR & FOOD ONOYA」と洒落た横文字が並ぶ。
1階入口を入った左脇、長年の往来で年季の入った暖簾をくぐって階段を降りると、そこでは「太陽みたいに明るくて元気をもらえる」と常連客に愛される3代目女将の小倉佳子(よしこ)さん(67歳)が、大きな笑顔で迎えてくれる。
「新部(にいべ)さん(佳子さんの旧姓)は、小学校の同級生なんだ。足が速くてリレーの選手。歌も上手くてね。ほっそりして手足が長いから、“オリーブ”って愛称で呼ばれていた。当時も今も僕らのマドンナだよ」(60代)
「10年前、小学校の同窓会で新部さんに再会しました。新部さんの店で飲もうって話になって、昔の仲間たちとこの店に集い、ワイワイやってるうちに、もっと気楽に生きようって、なんだか肩の力が抜けたんですよ。今では、月1で定例会をしています。ここで過ごす時間は、最高の癒しですよ」(60代)
「僕は途中で(小学校を)転校しちゃったんだけど、新部さんのことはよく覚えてる。クリスマスのとき一緒に教会に行ったこともあったね。昔からチャーミングで、大人になってからも雑誌の広告にスナップ写真が載っていたし、写真館に写真が飾られていたこともあった。ずっとみんなの憧れの人です」(60代)
日本橋育ちの幼馴染みが集う憩いの場で、すっかり少年時代に戻った仲間たちは、思い出話が尽きない。
「お客さんのリクエストで品数がどんどん増えたのよ」と、店の壁には直筆のメニューがずらりと並ぶ。
「ネギ玉やポテサラなど昔懐かしい味に癒されますね。子供の頃、外で遊んで帰ってきたときに母が作ってくれたような、昭和の家庭の味がするんですよ」(40代、金融系)と、女将の手料理も評判だ。
角打ちを始めた当時から人気のネギ玉子やきは、「玉子に白ワインをちょっと入れて焼くとふんわりするのよ」と女将が調理のコツを明かしてくれた。
「コンビーフ1缶をきゅうり丸ごと1本使ってサンドしたもの、これもお客さんのリクエストで作ったんだけど、“コンきゅう”と呼ばれてすっかり定番になりましたね」(女将)
「ここは兜町も近いからからね。かつては、証券会社のサラリーマンたちで店が満杯になって、みんな体を斜めにして、 “ダークダックス飲み”していたものですよ。
私は証券関係の専門誌で記者をしていたから、この店に来てこっそり情報収集もしてたんです(笑い)」(70代)と、40年以上通う馴染みの客の姿も。