今年1月に開幕したラグビー新リーグ「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」。その発足に向け、中心的な役割を果たしていたのが、前年まで新リーグ法人準備室長・審査委員長を務めた谷口真由美氏だ。しかし谷口氏は、リーグの開幕を待たず2021年6月に協会理事などの役職を退いてしまった。なぜ谷口氏は突如としてラグビー界を追われたのか──。
その顛末を明らかにした新著『おっさんの掟~「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』を上梓した谷口氏と、その谷口氏に様々なアドバイスを送り、支援してきた川淵三郎氏(日本サッカー協会キャプテン)が対談した。JリーグやBリーグなど、数々のプロスポーツリーグを立ち上げてきた川淵氏が、日本のスポーツ界にいまだ残る“悪弊”について語った。【前後編の後編】
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日本に蔓延する「現状維持」の病
川淵:「大義」よりも「組織の論理」を優先させてしまうのは、日本社会の古くからの悪しき体質だね。最近は少しずつ変わってきていると思うけれど、それでもなかなか旧弊は改まらない。とくに「現状維持」になびいてしまうのは、ある程度年齢を重ねて、それなりのポジションを掴んだ人たちだね。い返せば、僕らがJリーグを作ろうとしたときも、一番反対したのは団体や企業の部長クラスだったり、役職が上の人たちでしたよ。
「要らんことやってくれるな」とか「今だって、新聞にそこそこ企業名が出てる。冒険する必要はない」とか、常に後ろ向きなことを言うんだよね。
だけど、団体やチームの運営している課長クラスや若手はそうじゃない。現場を切り盛りしている人たちは「このままじゃまずい」と現状をよく認識しているから、「やっぱりプロリーグがないと韓国には勝てない」とプロ化に積極的だったね。
谷口:それはラグビーも一緒でした。新リーグのビジョンを説明すると、30代くらいの若い人たちは目をキラキラさせて「こういうことはできますか」「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」と前向きな質問を返してくるんです。ところが管理職以上の方々からは「それは本当に必要なんですか」とか「責任は誰が取るんですか」とか、どうしても後ろ向きな反応が多かった。
「新しいことが面倒くさい」──そんな雰囲気が蔓延していました。これはラグビー界に限ったことではありませんが、どうしても男性と年長者が大きな力を持っていて、女性や若者といった組織内での弱者の意見はなかなか反映されないと実感しました。
川淵:これはタテ割りの意識が強いスポーツ界全体、ひいては日本社会全体で変えていかなければいけない問題だね。歳を取っても情熱を持っている人はいるから一概には言えないけど、どうしてもおっさんが出しゃばると組織は停滞しがちになる。