まだまだ冬の寒さが続くこの時期。温かい部屋で読書を楽しむのはいかがだろうか。この冬に読みたい、おすすめの新刊4冊を紹介する。
『ブラックボックス』
砂川文次/講談社/1705円
メッセンジャーの仕事も通常に戻った緊急事態宣言明け、28才の佐久間はベンツを避け自転車ごと倒れる。社会保障などない裸の個人事業主の佐久間はこれまで自衛隊や不動産屋など職を転々としてきた。妊娠した円佳が言う。ちゃんとしようよ。が、「すがすがしい」暴行事件で佐久間は麦飯生活に。この転調が鮮やか。3度目のノミネートで芥川賞を受賞。熱量の高さに共振する。
『黒牢城』
米澤穂信/KADOKAWA/1760円
年末のミステリー国内部門の第1位を軒並みさらい、年明けには直木賞も受賞した評判作。信長に逆らい、有岡(伊丹)城にたて籠った荒木村重は、秀吉の使者・黒田官兵衛を地下に幽閉する。その四季の間に起こる不可思議な事件。それらを葡萄の各粒とすると、房になったときの謎もあるという二段構え。戦国の世の習いを描く部分はまるで針の心理小説。文章の密度が素晴らしい。
『縄文vs.弥生 先史時代を九つの視点で比較する』
設楽博己/ちくま新書/1012円
縄文は採集や狩猟で資源を共有した共同体。稲作を始めた弥生は集団労働と貯蔵でヒエラルキー型社会を作った。つまり現代の祖型は弥生時代にあると、まあ、こんな雑な先入観を持っていた。しかし縄文と弥生に明確な区分がある訳ではない。そのグラデーションを祖先祭祀、動物表現、土器など9の視点から論じる。縄文土器に「深海」を見た岡本太郎の感性にハッとさせられる。
『ぷくぷく』
森沢明夫/小学館文庫/902円
タイトルはユキの呼吸音。頭の一部が白いことからイズミにユキと名付けられた金魚の「琉金」は水槽の中から外の世界を見つめ続ける。野良の黒猫、突き当たりのコーヒースタンドとアルバイトの青年、男物の傘をさして帰宅するイズミ、窓辺に置かれたパンジーの鉢植え、失恋したイズミの元に駆けつける親友チーコ。若い世代の心に響きそうなハッピーエンドのファンタジー。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年2月17・24日号