春のセンバツ甲子園の出場校選考を巡る騒動について、日本高等学校野球連盟(日本高野連)は早期の幕引きを狙う構えだ。1月28日の選考委員会で発表された出場32校を最終のものとし、詳細な選考内容は公表しないとの見解を発表した。しかし、東海地区の「2枠」の2校目に、昨秋の東海大会で準優勝した聖隷クリストファー(静岡)ではなく、ベスト4で敗退した大垣日大(岐阜)が選ばれたことを巡り、疑念の声が今も相次いでいる。選考委員会の場で、どのような議論があったのか。8人いる東海地区の選考委員のうちのひとりが、ノンフィクションライター・柳川悠二氏の取材に応じた。【前後編の前編、後編を読む】
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日本高野連は2月10日、第94回選抜高校野球大会に出場する代表校に落選した静岡・聖隷クリストファー高校に対し、東海大会で準優勝しながら代表校に漏れた理由について「詳細な内容は公開になじまない」と説明を拒否し、何らかの救済措置も実施しないことを公表した。1月28日の選考委員会から2週間が経過しても、代表選考を巡る賛否の論争は収まらず、一部で33校目の出場を願う署名を集める動きも出ていたが、日本高野連としてはこれにて“幕引き”としたいのだろう。
まさかのゼロ回答に、聖隷クリストファーの校長であり、野球部の指揮官でもある上村敏正監督(64)も怒りを通り越して、困惑しているに違いない。
聖隷クリストファーのグラウンドの三塁側ベンチには、1月から3月までのカレンダーが吊るされている。東海大会で準優勝した昨秋から、同校にとって初の甲子園となる選抜出場を誰もが信じて疑わず、開幕直前に関西で行う練習試合の予定から浜松市長への表敬訪問の日時までカレンダーには書き込まれていた。もちろん、これも落選によって白紙となったが、選手たちのやりきれない感情を表すように、カレンダーはそのままだった。
そして、新チームがスタートした昨年夏に部員一人ひとりが目標を書いた紙もコンクリートの壁に貼られていた。
「120~130km/hのボールでも抑えられるキレと制球力をつける」
そう誓いを立てていたのは、2年生の塚原流星だ。本来は左利きの右翼手ながら、昨秋の東海大会ではヒジ痛でエースを欠いたチームにあって、試合中盤から終盤にかけてリリーフとしてマウンドに上がり、2回戦、準決勝の大逆転を呼び込む立役者となった。球速は130キロに遠く及ばなくても、丁寧にコースをついてピンチをしのぐ。肉体のサイズや生まれ持った運動能力には恵まれなくとも、弛まぬ努力で目標通りの投手に短い期間で急成長した。
ところが、東海大会で優勝した日大三島(静岡)に続く2枠目は、ベスト4に終わった大垣日大(岐阜)に決まった。その理由を、東海地区の選考委員長を務めた鬼嶋一司氏は「個人能力の差」「投手力の差」「甲子園で勝てるチームかどうか」とした。同じ説明を、塚原の前でもできるのだろうか。聖隷の関係者からすれば、チームの和で決勝まで勝ち上がった聖隷の選手を否定されたような選考理由だった。
だからこそ、私は聖隷クリストファーの救済──具体的には現状の32校に加え新たに1校をプラスする超法規的措置──を求めるべく、選考委員会で何が話し合われ、正当に大垣日大が選出されたのか、取材を続けて来た。