『るろうに剣心』シリーズで血しぶきや爆発、明治時代のセットといった映像の合成を担当するCGチームをまとめたVFXディレクターの白石哲也氏に、時代劇研究家の春日太一氏がインタビューするシリーズ。その白石氏のチームは、Netflixで配信されて大きな話題を呼んだ『全裸監督』シーズン2の合成も担当している。今回は、劇中リアルに映し出された1980年代の渋谷スクランブル交差点の映像がどのように創られたのかを聞いた。
* * *
白石:建物に関してはCGで相当に作り込める時代になっています。むしろセットの方が作りもの感が出てしまうケースもあったりします。大きいセットになればなるほど、ディテールの細かさが出しづらいのかもしれません。
──CGの方がリアル、という時代になっているんですね。
白石:たとえば交差点にある銀の看板。ただのスチールっぽい質感にすると綺麗に映り過ぎてしまいます。そこでCG側で錆び感を入れたり、反射率を下げたり。その上で、周りのガラス窓や壁にも「汚し」を入れるわけです。
──そうすると経年劣化の感じが出てきてリアルに映る、と。
白石:そうです。大事なのは「むら感」ですね。CGだからといって単純にやってしまうと、均一で凹凸がなくなってしまいます。
──それだけ、作り手の心配りが大事なわけですね。かつての映画人に通じる職人魂を感じます。
白石:ツールが変わっただけなんだと思います。CGのスタッフは大勢いますが、その個性も現れてくる。「汚し」にこだわる人もいれば、ライティングにこだわる人もいる。ディレクターはその個性を選んでいくわけです。ですから、スタッフの組み合わせによって、同じ映画でも違うものになるはずです。関わるスタッフのスキルやセンスがかなり影響されてくるので。
──そこもかつての映画美術に通じるものがありますね。
白石:でも、CGでは表現しづらいこともあります。「交差点を歩く人間」もその一例です。歩行者をゼロからCGで作ることもできます。でも、微妙な挙動とかが、どうしてもCGっぽくなってしまう。
そこで『全裸監督』シーズン2では、足利にある交差点のオープンセットにグリーンバックを張り、実際に人に歩いてもらいました。画面の手前は全て実在のエキストラに歩いてもらって、奥のフォーカスされないところをCGにしました。それで世界の広がりやリアリティが増すわけです。