Netflixの連続ドラマ『新聞記者』は、米倉涼子演じるエース記者が政府の公文書改竄事件を舞台に権力の闇に迫る物語だが、現在の新聞制作の現場はやや趣が異なるようだ。時間も費用もかかる調査報道に投入される記者は少なくなり、地方紙などでは読者との双方向の取り組みを深めて“サービスとしてのニュース”を充実させるところもある。
一方で、地方紙も全国紙と同様に部数が減少し、広告収入は大きく落ち込んで経営が厳しい。
それにともなって増えてきているのが、一般市民が人命救助などで貢献したとして警察署や消防署から表彰されたことを報じる“表彰記事“や記者が見聞きした身近な心温まるエピソードなどの“ほっこり記事“だ。
「昔は新人が任される数十行のベタ記事だったが、コロナ禍もあり殺伐としたなかで明るい話、感動できる話が読みたいという声が根強く、いまでは新聞社が力を入れる強力コンテンツ。地方ネタでもネット配信でPV数を稼ぎますし、全国区の話題に発展することも。最近は状況を詳細に描写した記事や、表彰された市民に再現してもらった記事など熱の入れようがすごい」(地方紙記者)
評論家の渡邉哲也氏は別の事情もあると語る。
「いわゆるほっこり記事が増えている理由の1つは紙面の穴埋めです。地方紙は経営が厳しく記者を減らしているが、第三種郵便の規定で広告は紙面の半分までと決まっているので、ページ数を減らせば広告スペースも減ってしまう。だから紙面を減らさないために穴埋め記事が必要なわけです。しかも、記者の数が減るなかで事件や事故を掘り下げる記事を増やそうとすれば裏取り取材に労力とコストがかかってしまう。その点、ほっこり記事は裏取りが楽。いい話を書かれてもクレームは来にくいですから」
経営難や記者のリストラで取材が楽な“ほっこり記事”や“表彰記事”、イベント参加記事が増えていく。地方紙の“タウン誌化”による苦肉の生き残り策といえそうだ。