鴨緑江をはさんだ北朝鮮との国境の町、中国遼寧省丹東市にある北朝鮮総領事館は、市内で働く北朝鮮労働者数千人に対して、2月20日までの北京五輪開会中について、「丹東市外に出張する必要がある場合、たとえ祖国に送る緊急物資が必要であっても、事前に総領事館に出張の期間と場所などを報告するとともに、列車のチケット予約を提示し、相手の名前と時間、場所などを届け出なければならない」と通告していたことが明らかになった。
同省瀋陽市にある北朝鮮総領事館などの中国の北朝鮮の在外公館でも北朝鮮労働者に対して同様の通告を出しており、北朝鮮労働者が冬季五輪開会中の北京で、韓国人や外国人と接触して「祖国を裏切る」ことを恐れているためだという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
丹東市にある北朝鮮総領事館は金正恩政権が必要としている外貨を稼ぐために中国に派遣した数千人の労働者を監督している。北朝鮮国営の貿易会社は中国企業と取引し北朝鮮に輸入する商品を調達するほか、工場で働く労働者を斡旋するなどしている。
これらの貿易会社を管理する朝鮮労働党当局は総領事館を通じて労働者らに「冬季オリンピックが開催されている北京とその周辺への訪問は厳禁であり、北京やその周辺で中国側と会う緊急の必要がある場合は、国家保衛省が指定した同行者の監視下で移動しなければならない」と指示していた。
これらを受けて、総領事館側では、個々の労働者に冬季オリンピックが終わるまで毎日、誰に会い、何をしたかを詳細に記載した報告書の提出を求めたほか、その家族の動きも厳しく監視された。
また、総領事館に派遣されている国家保衛省担当者は「労働者やその家族が冬季五輪見物のために北京に旅行していたことが分かれば、家族全員を『反党反革命分子』として処罰する」と警告しているという。
米国務省の2021年人身売買報告書によると、中国で働く北朝鮮人は2万~8万人と推定される。北朝鮮の労働力輸出については、国連の対北朝鮮制裁により、諸外国の北朝鮮国民への就労ビザ発給は凍結され、2019年末までに海外で働く北朝鮮人の送還が義務付けられているが、北朝鮮当局は中国やロシアに短期の留学ビザや観光ビザで労働者を派遣していると伝えられている。