トンガ海底火山大噴火は、物資不足やインフラ断絶など大きな影響をもたらした。多くの活火山を有する日本でも他人事では済まされない。もし富士山が噴火した場合、そのとき何が起こるのか? 私たちの暮らしに直結する被害の実態とは──。最悪の事態を知り、そのときに備えよう。
富士山噴火の現象別に被害範囲や時間予想を読み解く『富士山ハザードマップ』が2021年、17年ぶりに改定された。富士山では、大きな噴石、火山弾、火砕流、溶岩流、泥流、火山灰などあらゆる火山現象が起こる可能性がある。地球科学者で京都大学名誉教授・特任教授の鎌田浩毅さんはこう話す。
「“噴火のデパート”である富士山では、864年の貞観噴火においては溶岩が流れて西湖や精進湖、青木ヶ原樹海を作り、宝永噴火では大量の火山灰を降らせました。
次の噴火でどの現象が起こるかわかりませんし、すべてが同時に起こるわけでもありませんが、改定された富士山ハザードマップでは主な現象ごとに被害範囲や到達時間を予測しており、これらを把握しておくのは重要です。特に最初に飛ぶ大きな噴石の範囲や、火砕流や泥流は逃げきれないほど速く、勾配が緩やかなところの溶岩流は人の歩く速度より遅い点は知っておきたい。最も広範に影響する火山灰は、宝永噴火では横浜で約10cm、東京で約5cm積もったとされています」
火山灰は微量でも鉄道を停止させるなど都市機能に影響を及ぼす一方、富士山近郊では場所によっては1〜3mもの大量降灰があったケースも。
また、火山灰で物流や人流が止まった余波で食糧難を危惧するのが危機管理アドバイザーの国崎信江さんだ。
「首都圏は火山噴火に対して無防備で被害を具体的にイメージしづらいかもしれませんが、農作物への被害と物流停止で食糧難になる恐れがあります。それは首都圏では人口比で圧倒的に生産者が少ないからです。
近くに農家が多ければ食料を分けてもらうことができますが、首都圏で物流が止まればすぐ食糧が不足し、給食も福祉施設や病院での食事もままならなくなる。
さらに、飛行機や港、道路、鉄道が止まって物流が遮断されると、支援物資さえ届かないリスクがあります」