「本当に、私の病気に健康な夫を巻き込んでいいのかな、という葛藤がありました」と振り返るのは、2018年3月に夫婦間で生体腎移植を行った、医療コラムニストのもろずみはるかさん。福岡で生まれたもろずみさんは、12才のときに慢性腎臓病と診断された。
「父はいつも“はるちゃん、いつでもお父さんの腎臓をあげるけんね“と、励ましてくれていました。でも、私は中学生の頃から、“もしこの先、病気が悪化したら、人工透析をするんだろうな”と、呪文のように自分に言い聞かせていました」(もろずみさん・以下同)
自覚症状はほとんどなく、ほかの子供たちと同じように学校生活を送ることができた。だが、病魔はゆっくりと、もろずみさんの体を蝕んでいった。24才のとき、精密検査で「IgA腎症」と診断されたのだ。発症から20年で40%前後が腎不全に至る、指定難病だ。そんな中でも、勤め先で出会った男性にひと目ぼれ。猛アタックの末交際が始まり、6年後、28才のときに、逆プロポーズで結婚した。
「病気で子供は授かれんかもしれんけど、それでも結婚してくれる?」という言葉に、もろずみさんの夫は「子供が欲しくて結婚するわけじゃないし、ふたりで長生きして、温泉にでも行こうね」と答えたという。その後仕事も結婚生活も順風満帆だったもろずみさんだったが、36才でついに、末期の腎不全と診断された。生きるための選択肢は、人工透析か、腎臓移植か。ドナーを見つけるのは容易ではなかった。生体移植のドナーになれるのは、レシピエントの親族だけ。具体的には、6親等以内の血族と配偶者、3親等以内の姻族(配偶者の親族)しかいない。
「父は糖尿病の気があり、簡単な血液検査を受けた時点で、ドナーにはなれないことがわかりました。姉もドナーに名乗り出てくれましたが、アメリカ在住で、子供もまだ小さかった。そんなとき、夫が“ぼくはいつでもはるかさんに腎臓をあげるよ”と言ったんです。
夫から腎臓をもらうなんて、想像もしていませんでした。いくら手術が安全だと頭ではわかっていても、もし何かあったら? いまは健康な夫が、手術のせいで体調を崩してうつ病にでもなったら? ほんの少しでも危険があるなら、夫を巻き込まず、私が人工透析をした方がいいんじゃないかと、本気で思い悩みました」