人は死の淵に立つとどんな状況になるのか──古くから世界各地の伝承で臨死体験が語られてきたが、元プロレスラーの大仁田厚氏(64)もそういった体験をし、そこには「川と花畑」が登場したという。
1993年、喉の調子が悪かった大仁田氏は、九州巡業の試合後に呼吸困難になって救急搬送された。扁桃炎からの敗血症を発症した大仁田氏の意識は次第に遠のいていった。
「気がついたら、川の上で船に乗っていました。それから川沿いにあるスナックのような店で酒を飲んでいたら、いつの間にか外国の牧草地帯を歩いていました。目の前に丘一面の花畑が広がって、麦や花が咲き乱れてキラキラしていた。すると丘の上にある大きな木のあたりから俺を呼ぶ声が聞こえたので、牧草地から歩いて大樹に向かいました」(大仁田氏)
そのまま歩き続けようとした瞬間、「厚、厚……」と何度も名前を呼ぶ声が聞こえた。
「今にして思えば、お袋の声だったのかもしれません。呼び声のほうを振り返った瞬間、今度はシチュエーションが雪山に変わり、突然大きなヒグマが現われました。周囲に俺しかいないから意を決してヒグマに突進すると、太い腕でガツンと思い切り殴られて、その瞬間にパッと目が覚めたんです。
昏睡状態から1週間が経過していたという話でしたが、俺は起きてすぐに看護師に『熊に殴られたんだ』と大真面目に話した。実際に左側頭部が腫れてたんこぶになっていたんです」(同前)
大仁田氏のケースのように、すでに亡くなった親族などが現われる「お迎え現象」は、臨死体験の最中に多くみられる現象である。大仁田氏は臨死体験を経て、あの世を信じるようになったという。
「天国に行ったか地獄に行ったかはわからないけど、あのまま大樹にたどり着いていたら、俺はこの世にいなかった。振り返ってみると、臨死体験は生と死の境目だった。当時は客を喜ばせるためにデスマッチがどんどん過激になり、リングで死んでも仕方ないとの気持ちでいたけど、実際に死に直面すると、『やっぱり死んだら何もできない』と思うようになりました」(同前)
※週刊ポスト2022年3月4日号