【著者インタビュー】今村翔吾さん/『塞王の楯』/集英社/2200円
【本の内容】
越前・一乗谷城が織田信長の猛攻で落城。家族を失った匡介は、石垣造りを生業とする穴太衆・飛田屋の頭で「塞王」と呼ばれる飛田源斎に助けられる。源斎は、石の目を見る匡介の才能を見抜き、後継者に指名。匡介は「絶対に破られない石垣」をつくることで戦乱の世を終わらせようとする。一方の鉄砲職人の彦九郎は「どんな城も落とす砲」をつくれば戦争はなくなると考えた。秀吉の天下統一で平和が訪れたかに見えたが、その死で徳川家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍の全面対決が迫る。その前哨戦となった大津城の戦いで、匡介と彦九郎が激突。誇りをかけた戦いの火ぶたが切られた──。
偶然と言えば偶然で、全部が滋賀に集まっていた
絶対に破られない城の石垣と、どんな城をも落とす鉄砲。楯と矛を表す「矛盾」という故事成語そのままに、完璧なものをつくろうと、己の仕事に命を懸けた2人の男の運命が決戦の日にぶつかり合う。
今村翔吾さんの直木賞受賞作『塞王の楯』はクライマックスで、関ヶ原の戦いの前哨戦となった慶長5(1600)年の大津城の戦いを取り上げる。
現在の滋賀県、当時の近江の国には、穴太衆という石垣を積む職人集団がいた。さらに、国友衆という、日本を代表する鉄砲づくりの職人集団もいた。
今村さん自身も滋賀県大津市在住だが、地元だからこの戦いを取り上げたわけではないという。
「『塞王の楯』を書き始める前に、韓国軍のレーダー照射問題があったんです。専守防衛であるとか、防衛や軍事の話がよくニュースに取り上げられていて、この平和や戦争、抑止力といったテーマを歴史小説で表現できないか、と思ったんですね。戦国時代に、矛にあたるものはたくさんあるけど、守るということに関しては穴太衆しかない。滋賀で、取材もしやすいし、ラッキーとは思いました(笑い)。対になるものとしては、鉄砲の国友衆がいるじゃないかと。穴太衆と国友衆がぶつかり、国友衆の大筒が使われた戦いというと、大津城の戦いしかない。偶然と言えば偶然で、全部が滋賀に集まっていたんです」
主人公の匡介は、越前(福井)一乗谷の象嵌職人の子として生まれるが、一乗谷が織田信長の軍に攻め込まれたときに家族を失う。石垣づくりのために来ていた、穴太衆の飛田源斎に救われる。