ロシアのプーチン大統領が“実力行使”に踏み切り、ウクライナ危機は焦眉の急を告げているが、ここでの岸田内閣の外交的対応は日本の「北方領土返還」の行方にも大きくかかわってくる。
欧米はすでにロシアに対して経済制裁を発動。岸田首相も「G7をはじめとする国際社会と連携してさらなる措置を速やかに進める」(2月23日の会見)と、一応、欧米に足並みを揃えることを表明した。
だが、日本政府にはロシアに対して甘いという“伝統”がある。
ロシアがクリミアを武力併合した前回の2014年ウクライナ危機の際、時の安倍政権は北方領土交渉に配慮して中途半端な制裁にとどめたうえ、その後、欧米が制裁を続ける中、安倍・プーチン会談で国際協力銀行による投融資など8項目の「協力プラン」をまとめて経済協力を増やしてきた。
軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏が解説する。
「日本政府が弱腰であることの背景に、北方領土交渉を打ち切られたくないとの考えがあるのは間違いない。安倍政権の時代に、四島返還ではなく二島(色丹島、歯舞諸島)返還であれば実現させられるという分析で交渉を進めるようになったが、そもそも分析が間違っている。現在のプーチン氏に北方領土を戻すつもりはなく、むしろ実効支配を強められて、いいようにやられています」
プーチン氏のクリミア併合は、旧ソ連が北方領土を不法占拠したのと同じやり方とも言える。同じ目に遭わされた日本が、甘い対応を取っては、ロシアの行為を追認するようなものだろう。
さらに今回は米国が弱腰対応を許さない構えだ。
着任したばかりの米国のエマニュエル駐日大使は、クリミア情勢の緊張が高まる中、ツイッターに投稿した動画で「米国は北方四島に対する日本の主権を1950年代から認めている」(2月7日)と「四島返還論」をブチ上げた。
「安倍政権以来の二島返還の方針をバイデン政権は認めないというメッセージ」(外務省関係者)と受け止められている。ロシアに甘い対応を取ってきたことで、米国から領土交渉に注文をつけられた恰好だ。
岸田首相は、“前門のプーチン、後門のバイデン”に北方領土返還の入口も出口も塞がれつつある。
※週刊ポスト2022年3月11日号