人が運動する時は、まずは脳から筋肉に「動かしたい」という指令を出している。こうした脳の指令を検出し、筋肉の動きをアシストするマシンが、サイバーダイン社が開発した装着型サイボーグ「HAL」だ。
HALを腰のまわりに装着し、皮膚に貼ったセンサーと繋げることで、脳から神経を通じて筋肉に伝達する微弱な信号(生体電位信号)を検出。そして脳が意図した動作をすべく、筋肉の動きをアシストする。
もとは脚力が弱った高齢者や、下半身に障がいを持つ人が使用することで、身体機能の改善・補助・拡張・再生をはかる器具で、これを用いたアスリート向けプログラム「Neuro HALプラス」では、神経信号の速度や正確性を高める訓練を行なう。ツインズの前田健太が2020年に体験したほか、野球に限らずゴルフやバスケなど、各界アスリートが使用しているという。
トレーニング施設「MTXアカデミー」(東京・千代田区)で、実際にHALを装着して投球動作を解析した。HALのマシンはモニターに接続されており、筋肉を動かそうとするとマシンが神経信号を感知し、モニターの波形が下に伸びる。
目指すのは、必要なタイミングで動かしたい筋肉だけを動かすこと。投球時に無駄な筋肉に力みが生じないように、上手く「脱力」できているかを確認する。
MTXアカデミーのトレーナー・田邊大吾氏が解説する。
「波が鋭く下に伸び、三角形が鋭角になっていれば、無駄な力みがなく、必要なタイミングで筋肉を動かせている状態です。ピッチングで言えば、前足を上げて着地する直前のタイミングで鋭い波形で力を入れることができれば、ボールに最も力が伝わります。それ以外のタイミングでは、しっかり脱力している状態が理想的です」
脱力しているつもりでも、不要なタイミングで不要な部位に力みが生じると、波形が鈍くなる。プロのトップレベルの投手は普段通りの投げ方で鋭い波形になる一方で、同じ球速を投げる投手でも波形が乱れるケースがあるという。そうした投手は肩や肘などの特定の部位に余計な力が入っており、力んだ部位の故障にも繋がりやすい。
「HALは小学校3~4年生から使用でき、子供の頃から使うことで、正しい筋肉の使い方を習得することを推奨しています」
最新科学が未来のアスリートを生むかもしれない。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2022年3月4日号