「10代や20代の若い女の子から、『私も将来は、乙女オバさんになりたいです』と言われることが増えました。あなたたち、いま充分に乙女なんだからいまを楽しめばいいじゃないと思うんだけど、やっぱりうれしいですね」
そうほほ笑むのは、“乙女オバさん”を自称し、2月初めに同名のエッセイ『乙女おばさん』が発売された女優の南果歩(58才)。このキャッチーなフレーズは、南が趣味とするバンド活動でオリジナル曲の作詞をしていた最中に、偶然思いついたものだという。
「頭にパッと浮かんだ言葉をノートに書き留めたら、自分でも意外なくらいしっくりきて……。私は語学留学やドラマの撮影などで長期間海外に滞在することが少なくないのですが、現地では年齢にとらわれずに新しい挑戦をする女性の姿にいつも刺激を受けていました。
たとえばロスで英語学校に通っていた40代のとき、いちばん前に座っていたのは老眼鏡をかけた白髪交じりのスペイン人の女性。彼女の情熱はクラスの雰囲気を一変させるほど強いものでした。
だけど日本人は年齢を理由に新しいことを始めるのに躊躇して、一歩を踏み出せないケースが多い。海外で出会ったミドルエイジの女性たちのように常に新しいことに飛び込む勇気を持ちつつ、いくつになっても、乙女心や夢見る心も忘れないでいたいと願う気持ちに、『乙女オバさん』という言葉がフィットしたんです」(南・以下同)
女優として第一線で活躍し続けながらも2度の結婚や闘病生活など、さまざまな経験を経て“乙女オバさん”にたどりついた南は、女性の生き方をめぐる時代の変化を強く感じているという。
「世界を見渡せば、女性の権利はまだ認められていない面も多くありますが、女性の生き方に多様性が生まれ、選択肢が増えたのは確かです。ドラマや映画でおばさん世代が演じる役柄も、ひと昔前までは“お母さん”が定番だったけれど、いまはもっといろいろなキャラクターがいる。おばさんといえども発言する場があるし、何かを新しく始めるチャンスもある。
いろいろな経験を経てこそ人生は豊かになる。10代や20代の人にはよく『この先はもっと面白いから大丈夫』と言っています」
ライター歴43年を誇り、『女性セブン』で“オバ記者”として数々の体当たり取材をこなしてきた野原広子(64才)も、おばさんを取り巻く世の中のムードが変わったことを実感する。
「最近、明らかに変わったのはみんなが私を『オバ記者』と呼ぶときに遠慮しなくなったこと。以前、特に男の人は『“オバ”なんて呼んだら悪いかな』というためらいが声音に出ていたけれど、いまはそんな雰囲気はない。
それどころか、ある中年男性ライターからは『オバ記者ってどこに行っても人気者でいいよな。おれも“オジ記者”って名乗りたいけど、特に需要ないもんなあ……』と打ち明けられた。そうか、いまやおばさんってうらやましがられる存在になりつつあるのか、となんだか感慨深かったわ」(オバ記者)
“おばさん”と呼ばれてためいきをつく時代は終わりつつあるのかもしれない。
※女性セブン2022年3月10日号