少しずつ春を感じられる日も、増えてきそうなこの時期。ゆっくりと読みたいおすすめの新刊4冊を紹介する。
『おもちゃ 河井案里との対話』/常井健一/文藝春秋/1980円
女性の“生きづらさ”を見極めようとする異色の、いえ旬の政界ジェンダー・ノンフィクション。2019年に参議院議員になった案里氏を取材した著者は、その後も交流を続け、図らずも惨めな退場(有罪判決&辞職)までを目撃する。政治の裏側は10才上の夫に任せ、華麗な流行服と正論で表舞台の主役を務めた彼女のある種の無邪気さに、答えは出せないけれど考え込んでしまう。
『ミシンと金魚』永井みみ/集英社/1540円
オムツが欠かせず、デイサービスや訪問介護で独居を成り立たせている安井カケイ。時々来る息子の嫁に息子のことを聞くと「2年前に死んだろ」と。そうだったかなあ。遠い日々ほど鮮明な記憶が紡ぐ「あたし」の一生。介護に従事する女性達の名がみんな「みっちゃん」になる理由が明かされる箇所(タイトルの由来でも)では不覚にも落涙。“小さな巨人”と呼びたくなる感動作。
『発達障害「グレーゾーン」その正しい 理解と克服法』/岡田尊司/SB新書/990円
障害のレベルを山に例えると、中腹から裾野にかけてがグレーゾーン。が、そう診断されても放置してはいけないと著者は言う。子供なら療育やトレーニングで改善するし、大人なら生きづらさの複合要因を分解することで必要な対処法も見えてくるからだ。ADHD(注意欠陥・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、愛着障害や学習障害。有名人の例もあって読みやすい。
『△が降る街』/村崎羯諦/小学館文庫/726円
表題作が冒頭にあり、その後に目次がくるという変わった作り。失恋ものの表題作は、年季の入った大人にはちょっと辛いかもと思って読み進めると、奇想の効いたホラーや笑話が出てきて尻上がりに面白くなっていく。「折りたたみ式の彼」や「充電式の彼」というSF奇譚の着地に笑い、「真面目に地獄行き」には自分の未来が描かれているような恐怖が。旅行鞄に入れたい掌編集。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年3月10日号