昭和の大スター・西郷輝彦が2月20日、前立腺がんのため都内の病院で亡くなった(享年75)。2021年4月からはオーストラリアに渡り最先端のがん治療を受け、「がんが消えた」と喜んだ矢先の死だった。旧友と専門医の証言で、西郷の闘病を振り返る。【前後編の後編。前編を読む】
日本では未承認の「PSMA治療」は体から放射線が消えるのを待つため8週間の間隔を空け、計3回行なうのが基本で、西郷も計3回アクチニウムを投与した。静脈注射のみなので、他のがん治療と比べて体への負担は格段に軽いというメリットもある。
一方、治療費は高額で、くぼたクリニック松戸五香院長の窪田徹矢医師(泌尿器科)によると「1回の治療で150万~200万円ほど。3回行なえば450万~600万円ほどかかります」という。
それでも最後の望みをかけてPSMA治療に挑んだ西郷だったが、1回目の注射後の結果は期待を裏切るものだった。投与後に受けた検査で、前立腺がんの可能性を示すPSAの数値が、上昇していたのだ。その時の心境を西郷はYouTubeでこう明かした。
「(PSAが)3か4だったのがですよ。ある日325に上がったんです。もう驚天動地ですよ。それで清水(の舞台)から飛び降りる思いでシドニーへ来たんじゃないですか。こちらで測ったら470。そして治療していただいてなんと510。ドクターはフレア現象だって言うし……」
フレア現象とは、放射線治療後の一過性の疼痛増悪を指す。
さらに医師からは「次からは座薬を併用しよう」とも告げられたという。窪田医師が語る。
「他の前立腺がん治療でも、治療に反応してPSAの数値が上がるフレア現象はよくあることです。ただ、なぜ座薬を使うと提案したのかは、馴染みがない治療法なのでよく分かりません」
失望する西郷だったが、8月に受けた2回目の治療では、状況が一転する。治療後のCT検査画像を見て、西郷はこう大声を上げた。
「がんが消えた!」それを報告する動画には、喜びと同時に困惑の表情も映し出されていた。「よかった。やった。あれ?」がんは消えたはずなのに、PSAの数値は上昇していたのである。
一抹の不安を抱えていたものの、西郷は3回目の投与を行なった。9月8日にオーストラリアで収録された日豪プレスの対談では、「最高です。どこか悪かったんだっけ? そう感じるくらいです」と述べるほど、快方に向かっていたはずだった──。