「今日は休日だし、もう少し寝てもいいかな」。ついつい乱れがちなコロナ禍の生活リズムが、多くの人たちの健康リスクを高めている。一日の始まりと終わりをリセットできない日々によって、深刻な病気のタイムリミットが迫っているかもしれない。
地球上の生物は、「体内時計」によって約25時間周期で生活リズムを刻んでいる。
2017年には「時計遺伝子」のメカニズムを解明したアメリカの研究者がノーベル賞を受賞し、体内時計と健康の関係性が世界中で注目されるようになった。それ以降、「規則正しい生活」の重要性がより指摘されてきたが、コロナ禍の巣ごもり生活によって多くの人々の体内時計が狂い始めている。
米ハーバード大学医学部客員教授で医師の根来秀行さんが話す。
「世の中にリモートワークが浸透し始めた約2年前は、出社が不要になったり、出勤時間が遅くなったことで『余裕のある朝を過ごせる』と喜ぶ声を多く聞きました。ところがいまはそれが逆効果となり、不調を訴える人が増えています。
起床時間が乱れて夜ふかしが増え、自宅作業で職場まで歩かないため運動不足が続いている。不安やいら立ちによるストレスもたまり、夜になっても気が張りつめている人が多いのです」
『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門』(講談社)の著者で、早稲田大学先端生命医科学センター教授の柴田重信さんの研究グループが2020年8月に発表した約3万人を対象に行った調査でも、10〜70代すべての世代で、外出自粛生活が始まってから平日の起床時刻が遅くなったことが明らかになっている。
通勤や通学といった社会的制約がなくなり、生活に「ゆるみ」が生じた人々の中には、そのゆるみが健康リスクとして自身に跳ね返っている人もいる。柴田さんが言う。
「巣ごもり生活で、『太った人』と『やせた人』の両方が存在します。やせたのは、夜遅くまで接待や会合に出かけていた人たち。夜型の生活から朝型に変わったことでやせました。
一方、好き勝手に夜食を食べ、深夜までゲームをする夜型生活に変わった人たちは太っています。もともと、人の体内時計のサイクルは24時間より少し長くできているため、放っておくとずれていき、夜型になりやすい性質がある。自制しなければ、みるみるうちに夜型へと体内時計が狂ってしまいます」